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建設業界DX化は課題の宝庫。 だからこそ、挑戦のしがいがある

建設業界DX化は課題の宝庫。 だからこそ、挑戦のしがいがある

株式会社コアコンセプト・テクノロジー 取締役 SI事業本部 本部長

 建設業界のDXという点では、他の業界同様、大きな会社ほど進んでいて、スーパーゼネコンと呼ばれるようなところは、すでに様々な取り組みを始めている。しかし、本音をうかがうと、各社とも「DXがスムーズに進展している」と、胸を張れる状況にはないようだ。まだまだ改善の余地があると感じながら、次に何をすべきなのか、具体的な戦略を決めきれない、という会社は多いと感じる。

 改善のヒントは、いくつかある。例えば、積算業務。この業務を自動化するメリットは大きいはずだが、100%達成している会社はなさそうに見える。BIMで概算は出せても、実際にえる精緻なデータに仕上げるためには、逆に人手が必要で、面倒も増える。「だったら、今までどおりでいいではないか」というIT化でよくあるパターンにはまり、なかなか方策が定まらず攻めきれない。

 また、建設業界の大きな壁の一つは、設計と施工で図面がデータ連携していない、という点ではないだろうか。設計図は、デザイン・コンセプトを施主に示すための図面。一方施工図は、実際に建物を建設するための図面で、設計から受け取った図面をもとにあらためて施工図を作成しているようだ。

 わざわざそうせざるをえないのは、施工図は施工現場の詳細な条件や施工手順を反映する必要があるからにほかならない。だが、「せっかくつくった設計図をそのまま施工図に変換できないのか」という疑問を抱く人は少なくない。建設業のある経営層の方に話を聞くと、「設計と施工のデータ連携が必要だ。少なくとも情報はそのまま連携して詳細化したい」とおっしゃっていた。

 製造業に携わってきた立場から私見を述べさせていただくと、製造業の現場には、CAM(コンピュータ支援製造)というツールがある。例えば、製品の設計図をもとに金型の設計図が自動でつくられ、金型の設計図をもとにCAMが加工機を動かす制御データを生成する。

 CAMは平たく言えば、製品の設計図から実物を形づくっていくゲートの役割を果たす。ゆえに、製品設計から加工機の制御までスムーズにつなげることができるわけだ。そういう仕組みが、建設業界には存在しないように見える。言い方を変えれば、製造業のCAMに建設業の設計と施工をつなぐヒントがあるのではないか――そんな感触を私は持っている。

 とはいえ、その実現は簡単ではなく、ハードとソフトの両面での進化と融合が必要と思われる。製造業とは違う建設業の難しさも認識しているつもりだ。基本的に同じ工場内でものづくりをする製造業と違い、建設はものづくりの現場が毎回変わる一品一様の世界。また、設計にも施工にも多くの会社や人がかかわり、プロジェクトは1社で閉じることがない。DXという切り口で言えば、例えばデータをそれらすべてでシームレスに共有しなくてはならない、というハードルの高さがある。

 正直言って、聞けば聞くほど建設業界というのは、“深い世界”だと実感する。だが、そこに誰かが踏み込んでいかないと、状況は変わらないだろう。幸い我々には、製造業という異業種で培ったノウハウがある。何よりも現場が大事だ、という信念もある。実際、施工現場に行けば、見えてくるものがまったく違う。そこで得られた知見を、いかに仕組みに落とし込むか。そのチャレンジに我々の使命、存在意義があると思っている。

PROFILE

Hajime Tsunoo

Hajime Tsunoo

2002年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了後、株式会社インクス(現SOLIZE)
入社。大手小売業の株式会社ニトリを経て、09年、株式会社コアコンセプト・テクノロジーの設立
メンバーとして参画、IT人材調達支援事業の立ち上げや多数のシステム開発案件に従事。12年、
執行役員に就任、人事統括責任者として人材育成・採用力の強化に注力。16年、取締役に就任。

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