建設BIMを基幹システムに連携させ、 「エシカル」と「デジタル」を推進
船場 BIM CONNECT本部
デジタル基盤の構築でビジネスが前進する
建設業界でのBIM導入は、国土交通省が2010年に導入宣言を行って以降、官民一体で推進されてきた。しかし、普及は想定ほど進まず、多くの課題が浮き彫りになっている。
こうした状況のなか、内装ディスプレイ業界大手である船場は、BIMを活用したビジネス改革を進めつつ、業界全体の変革を目指している。同社は19年にBIM推進室を設立し、業務効率化と生産性向上を目標に置いた。さらに21年、「エシカルとデジタル」を企業改革の重要テーマとして掲げ、BIMを経営戦略の中核に位置付けた。そして24年には、ビジネス活用を加速するためBIM CONNECT本部を新たに設置している。
同部の本部長を務める多喜井豊氏は、これまでに社内DXの基幹システムである「セールスフォース」の活用を促進し、経営層が予実管理を可視化できる体制を構築してきた人物だ。
「不確実性の高い時代、意思決定の選択肢を広げるためにはDXによるデータの可視化が不可欠です。同様に、BIMもビジネス全体を加速させる強力な経営戦略ツールだと確信しています」
BIM導入当初は、主にビジュアライゼーションツールとしての活用が中心だった。しかし、23年以降、BIMデータの積極的な利活用を目指し、基幹システムとの連携を開始。これにより全社のBIMデータが一元的に管理され、重複作業の防止やデータ活用の効率化が進展した。同社のBIMは、単なる設計ツールの枠を超え、業務プロセス全体を変革するためのプラットフォームへ融合されているのだ。
BIM活用のメリットはこれだけにとどまらない。顧客との合意形成プロセスに活用することで認識の齟齬が減少し、リピート案件の増加や顧客満足度の向上にも寄与。これらの成功事例を社内で共有するため、同社は「BIM活用マガジン」を発行。顧客や設計・営業担当からの反響を掲載し、さらなるBIM活用の促進を図っている。

BIM CONNECT本部には社員12名が在籍。技術を身につけたメンバーが東京本社と関西支店に所属し、社内へのBIM活用を促進している
BIMの積極活用に向け社内外にコネクト
昨年、BIMの年間活用件数は140件を超え、大型案件も増加している。同社は、BIMを業務使用する際、同部への申請を義務付けた。申請を受けたのち、必要であればBIMモデラーがBIMモデルを一部作成し、プロジェクトチームに提供する。
「躯体や什器モデリングがハードルなら、私たちで対応すればいいと考えました。そこをクリアしたことも、BIM活用件数が増えた理由です。ゆえに設計部向けのBIM研修は、内装BIMモデル作成を中心とした内容に切り替えました」と同部部長を務める大倉佑介氏は語る。
昨今は社内外の関係者とのワークシェアリングによる設計も増加傾向にあるが、小規模事業者が多い内装業界でのBIM活用促進も今後の課題である。
同社は社内でのBIM普及を推進するため、19年から社員研修を実施している。独自の研修カリキュラムを作成し、学びを断続的にサポートする支援体制も整えた。例えば、研修で明らかになった課題を基に10分程度の短い「eラーニングコンテンツ」を作成。質問が寄せられた際には該当コンテンツを紹介し、迅速な対応・習得を実現している。今後のBIM活用の方向性について、多喜井氏は次のように語る。
「自社だけのBIM活用ではなく、施主・建築・設備・メーカーなど社外関係者とのコネクトがますます重要となり、今後は業界全体への普及が欠かせません。各社の取り組みが点から線、そして面に成長することで、データ連携や活用につながり、価値が向上します。船場としては、業界全体のBIM普及はもちろん、設計施工でのBIM推進とBIMデータ活用による新ビジネス創出を目指したいと思います」
- 多喜井 豊(たきい・ゆたか)
執行役員 BIM CONNECT本部長 1992年、東洋大学経営学部卒業後、株式会社船場入社。
主に営業、企画開発部門を経験し、商業をはじめ様々な分野の空間づくりに従事。
企画・設計施工のほか、多くのプロジェクトを通して、
業態開発・出店開発・リーシング・ブランディング等の業務にも携わる。
2019年、執行役員EAST事業本部長に就任。
本部経営の円滑化におけるデジタル活用に目覚め、
事業側のDX推進責任者として社内DXを推進。
24年より現職。モットーは当事者意識、ユーザー視点。
- 株式会社船場
所在地/東京都港区芝浦1-2-3 シーバンスS館9階
https://www.semba1008.co.jp/
商業空間からオフィスまで幅広い分野での空間創造に
おいて、調査・企画から設計・施工、デジタル演出、メンテ
ナンスまでを一貫してサポート。海外にも事業を展開し、
アジア全域の大型施設の開発にも多く携わっている。