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私たちの職域はとても広い。 人々の思いと建築家一人ひとりの才が つながっていけば、いろんなまちが もっと豊かに、楽しくなると思う

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大西麻貴

 近年活躍する若手のなかでも、とりわけ注目されている建築家ユニット「大西麻貴+百田有希/o+h」。住宅やオフィスのほか、公共空間、福祉施設など幅広く手がけ、日本建築学会賞をはじめとする受賞作品も多い。主なものとして、「二重螺旋の家」「GoodJob! Center KASHIBA」「シェルターインクルーシブプレイス コパル」などが挙げられる。作品一つひとつの背景には、その場を利用する人々や地域特性、時間を一連のものとして捉える思想があり、それが豊かな建築を生み出している。大西らが一貫してテーマにしているのは「生き物のような建築」。建築と人間の関係を問い直す意味において、これは一つの重要な指針となっている。

スペイン旅行で「建築のすごさ」に触れ、心を奪われる

 大学進学で上洛するまで、大西は名古屋市で生まれ育った。子供の頃から本を読むのが大好きで、なかでも親しんだのは、歴史や神話をベースにしたファンタジー。その世界観に浸ったり、絵に描き起こしたり、一人で遊ぶことが多かった。本人曰く「どちらかというと、内向的な子でしたね」。

 反対にスポーツ好きで屋外派である両親は、そんな私をなるべく外に出そうとして、小さい頃から水泳教室やテニス教室に通わせていました。冬は必ずスキーにも行って。私は影響を受けやすいというか、良くも悪くも素直だから(笑)、それはそれで面白かった。実際、中高の6年間はテニスに熱中し、友人らと練習に明け暮れたものです。 これも「外に出そう」の一環だったと思うのですが、10歳の時、NGOのCISVが催す国際キャンプに参加したんですよ。行った先はブラジル。同世代の男の子、女の子がグループになって〝親なし〞で参加し、世界各国から集まった子供たちと1カ月間共同生活を送るというプログラムです。子供って言葉が違ってもすぐに仲良くなれるし、ブラジルはとにかく陽気だから楽しくて、ホームシックになるどころか、帰りたくなかったくらい。

 進学した南山中学校・高等学校は、進学校ながら自由な校風で、サバサバした人が多く、のびのびと過ごせました。カトリック系の学校ですが、キリスト教だけでなく、仏教やヒンズー教、哲学のことなども学んだ6年間は貴重だったと思います。いろんな個性的な先生方がいらして面白かったし、何より、今でも仲のいい一生の友達を得られたことは財産となりました。

「建築ってすごい」「建築家になってみたい」。漠然とながらも、そんな意識が芽生えたのは中学生の時。きっかけとなったのは、家族と赴いたスペイン旅行だった。アルハンブラ宮殿や古都・トレドなどを訪れ、それまで得たことのない濃密な空間体験に、大西は深く感動したという。

 カサ・ミラ、カサ・バトリョといったガウディの建築を見て回ったのですが、なかでもすごいと感動したのはサグラダ・ファミリアです。ガウディの死後も大勢の人がその思いを引き継ぎ、建設が続いている様はまさに圧倒的で。一人の建築家による構想が驚くほどの長い年月を経て実現していく――建築のすごさを体感した思いでした。

 そして、子供の頃に読んだヨーロッパの児童文学から想像していた街並みは、現実として目の前に現れると、思った以上にギャップがあって驚きました。よく覚えているのは、スペインの光と影は日本とは違って、とても色濃く感じたこと。また、アルハンブラ宮殿のようにヨーロッパとイスラムの文化が混じり合って、オリエンタルな雰囲気を醸し出していたこと。ガウディ
の建築に加え、こうした想像を超える空間を体験したことが、建築に向かうきっかけになったのは確かです。

 もちろん建築家になれるかどうか確信はなかったけれど、大学進学にあたって建築を選択したのは自然な流れでした。いつも一緒にいた仲間と東京や京都の大学を見に行って、選んだのが京都大学。お寺が好きですし、やはり、まちの魅力に惹かれたのです。もっとも、京都には観光でしか行ったことがなかったので、最初の頃は、まちのことをよく知りませんでした。時を超え
てつながっている京都の魅力を本当の意味で知ったのは、日々の暮らしを通じてだったように思います。

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大学院時代から手がけた実施プロジェクトを通じて、力を養う

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PROFILE

大西 麻貴

大西 麻貴
Maki Onishi

1983年5月13日 名古屋市名東区生まれ
2002年3月 南山高等学校女子部卒業
2006年3月 京都大学工学部建築学科卒業
2008年3月 東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻修士課程修了
4月 大西麻貴+百田有希 /o+h共同主宰
2016年4月 京都大学非常勤講師
2017年4月 横浜国立大学大学院Y-GSA客員准教授
2022年4月 横浜国立大学大学院
Y-GSAプロフェッサーアーキテクト(教授)
家族構成=夫

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