建設×デジタルで業界の課題解決へ

ワンストラクションは、ＢＩＭの利便性を向上させ、建設プロセスの最適化を目指すスタートアップ企業である。建築・土木・設備の枠を超えて事業を展開し、デジタル技術を駆使した新たな価値創出に取り組んでいる。

同社の共同創業者でありＣＥＯを務める西岡大穂氏は、学生時代に農業を専攻していた。農業高校では芝生を研究し、その成果がゼネコンの目に留まったことで、津波を軽減させるスーパー防潮堤の緑化プロジェクトに参画。これが建設分野への関心を深めるきっかけとなる。「技術が社会を変えられる」ことを肌で感じたという。

その後、鳥取大学に進学し、砂漠地帯の緑化研究に取り組む一方、起業にも興味を抱く。実際に農機具のレンタル事業を立ち上げたが、事業を軌道に乗せる厳しさを痛感したそうだ。そんな活動を続けるなか、地域の経営者や行政関係者との交流を重ねながら、社会課題の解決に向けた事業の可能性を模索するようになっていく。　転機となったのは、自社のＣＴＯを務める宮内芳維氏との出会いだった。彼は鳥取大学大学院で土木工学を専攻し、ブリッジコンテストのアジア大会で優勝した実績を持つ人物だ。

「宮内と対話するなかで、建設業への興味が高まると同時に、業界の人手不足問題の深刻さの理由なども理解できました」と西岡氏は当時を振り返る。

意気投合した二人は、建設業界の課題を解決する会社を立ち上げる決意を固めるが、まずは実務経験と技術習得が必要だと考え、西岡氏は大手ＩＴ関連企業への就職を決意。同社での業務に従事する傍ら、２０２０年にワンストラクションを共同設立、ＢＩＭ３Ｄモデリングの受託業務を開始した。

事業を進めるなかで、ＢＩＭ導入に対する業界内の抵抗感や認知度の低さ、大手と中小企業の技術格差といった課題が浮かび上がってきた。特に、異なるソフトウェア間でデータ形式が統一されておらず、業務効率化の障害となっていることに驚いたという。

「スマートフォンの充電規格がＴｙｐｅ-Ｃに統一されたように、ＢＩＭにも共通フォーマットの整備が必要不可欠と考えました」と西岡氏。

この課題解決の鍵となるのが、「ＩＦＣ」だ。ＩＦＣは、各種ＢＩＭソフトのデータを共有し、相互運用を可能にするオープンな国際標準フォーマットだ。国内の建築確認申請のデジタル審査においても、ＩＦＣ形式の提出が推奨されている。この規格の普及が業界全体のデジタル化と効率化を促進すると確信し、同社はＩＦＣやＢＩＭ関連の技術開発を主導する国際的な非営利団体「ｂｕｉｌｄｉｎｇ ＳＭＡＲＴ ｉｎｔｅｒｎａｔｉｏｎａｌ（ｂＳＩ）」に参画。日本のスタートアップとして唯一、企画サイドに関与している点も同社の大きな優位性である。

標準規格に着目しソフトウェアを開発

そして同社は、ｂＳＩの提唱するｏｐｅｎＢＩＭ®ワークフローを実現するプラグイン「ＯｐｅｎＡＥＣ」を開発する。すでに世界約50カ国で利用されており、昨年にはＡｕｔｏｄｅｓｋ社との業務提携も実現した。

日本国内のみならず、世界に影響を与える存在となりつつある同社が、本社を鳥取県に構える理由について、西岡氏は「地方経済を活性化することが、日本全体の成長に必要不可欠」と語る。

「鳥取の経済を盛り上げるために、この会社を成長させなければなりません。将来的には、駅前にシンボリックな本社ビルを建て、グローバルビジネスを展開する拠点とすることで、地域活性化に貢献したいと考えています」

設立５年目の現在を、西岡氏は「本格的な勝負の始まり」と認識している。

「ＯｐｅｎＡＥＣの導入により、誰もがＩＦＣを扱えるようになります。建設業界全体のルールや制度の変革も並行して進める必要がありますが、デジタル化が加速するなか、中小企業や個人事務所が存続できなければ、地方の活力はどんどん衰退していきます。企業規模や地域に関係なく、その恩恵をきちんと享受できる環境整備が必要なのです。そして、アジアをはじめとする海外市場においても、日本政府と連携しながらデジタル化を推進し、日本企業のプレゼンス向上を支援する――今、これが当社に与えられた使命だと考えています」