スタッフ全員がパートナー。 対話とヒアリングの徹底が 仕事の領域を広げ続ける
株式会社オンデザインパートナーズ
同社は、スタッフ一人ひとりが各案件の共同設計者となる「パートナー制」を導入している。代表の西田司氏のかかわり方も、事務所の〝先生〞としてではなく、プロジェクトメンバーの一人というスタイルだ。
「設立してから2年ほどは、私が設計してスタッフがサポートするワントップの組織でした。ですが、一人の意志やアイデアでつくり上げることにクリエイティビティを感じなくなったのです。事務所の内側、外側が知恵を重ね合うことで、予測できなかった新しい価値あるものが生まれることに気づきました」
一つのものを複数人で一緒につくる。こうした趣向は、仕事の手法にも表れる。設立当初は、主に住宅設計業務を手がけていた同社が、病院、学校などの施設設計、まちづくりなどの計画業務へと手を広げたのも、「使う人と対話しながら建てる」という考え方が起点となった。
「もともと、住宅以外の業務は、専門的な技術を持つ人の仕事だと思っていたのです。例えば、病院なら病院を得意とする設計事務所が手がけるほうがうまくいく、と。でも住宅設計において、キッチンが好きな施主と一緒につくればよいキッチンができるのと一緒で、施設設計やまちづくりにおいても、実際にそこを使う人と対話してやってみたら、案外うまくいくのかもしれないと思ったのです」
2009年に竣工した「ヨコハマアパートメント」は、西田氏の気づきを確信に変えた。
「今でいうシェアハウス」と表現されるこの集合住宅は、1階に広場スペース、2階に居住部屋が4戸あるつくり。別々に住む4人が1階を共有すると、それぞれが自然に多様な使い方を発案するのだという。
「パーティ、展覧会、流しソーメンとか(笑)。実際、私も家族と一緒に一時期住んでみたのですが、別部屋に住むアーティストが1階でお絵描き教室を開き、うちの子供が参加するなど、一世帯では経験できない面白い日常を体感できました。公共の施設には、日常の延長に、『人と何かをすると楽しい』と感じられることが大切なのだと思います。であれば、専門家の手法よりも、そこで活動する人と一緒につくるほうがよりよいのではないかと思うのです」
同社は、「ヒアリングと対話」「多様性」「柔軟性」の3つを理念として掲げる。この意味について、西田氏は、「建物をつくるということは、そこに人が集まるということ。せっかく集まるなら、多様性があったほうが持続します。計画・設計段階からヒアリングと対話といった手法を使い、柔軟な姿勢で取り組むことで、こうした多様性を実現したいと思う」と語る。
依頼案件も、多様性を極める。例えば、現在手がけている計画業務の一つ、「コミュニティボールパーク化構想」。横浜DeNAベイスターズと横浜スタジアムが協働して取り組むプロジェクトだ。スタジアムを野球ファン以外に利用してもらうことを目的とし、同施設のある横浜公園内にコーヒーショップをつくったり、近隣に「スポーツ×クリエイティブ」をテーマにした創造拠点を計画したりしている。
「クライアントや施主が『やりたい』と思ったことを起点に考えます。本当に様々な方が対話の相手として当社を選んでくださり、多様な案件を持ってきてくださるので面白いです」
スタッフの採用は、西田氏いわく、「人事は僕が経営者としてもつ唯一の特権」とのこと。新しいパートナーを随時受け入れている。
「当社の仕事は、明確なゴールが見えていて、それに向かっていくものではなく、パートナーや施主と対話しながら、見えないものを〝見える化〞していく作業です。ですから、そのプロセスを楽しめる人に向いていると思います。めげずに一所懸命チャレンジし続けることができる、そんなパートナーとの出会いを楽しみにしています」
- 西田 司
横浜国立大学工学部建築学科卒業後、ス
ピードスタジオを設立、共同主宰。2004年、オンデザインパートナーズ設立。
「ヨコハマアパートメント」で日本建築家協会新人賞
(2012年)、「ISHINOMAKI 2.0」でグッドデ
ザイン復興デザイン賞(2012年)ほか受賞多
数。東京大学非常勤講師。一級建築士。