素材と力学・幾何学を駆使し、研究と実験を繰り返す。
構造形態を多様化させながら、環境制御の“フィルター”を形成する
佐藤淳構造設計事務所 佐藤淳
「力学に基づいて形状を生み出す。それが機能美を備えた建物に結実した時には、とてもやりがいを感じますね」。構造設計の魅力を、佐藤淳氏(佐藤淳構造設計事務所)はそう語る。仕事では、建築家や現場の職人とのコラボレーションをことのほか大事にしてきた。そうやって数々の建造物を手がけてきた構造家が今取り組むのは、「透過性を持つ構造の、環境に対するフィルター的な役割」へのアプローチである。いったいどんな〝技〞なのか。
〝安全〞は当然。多様な素材で機能美を設計する
「これを見てください」。そう言って佐藤氏が手にしたのは、30㎝ほどの細長い角材が八方に突き出た形の模型だ。
「実は4本の木材を、真ん中のほぼ1点で接合できたんですよ。『木組み』という日本の伝統技法を応用して、それぞれの接合部を精巧に刻んで組み上げました。どれだけ〝至難の技〞だったかは、専門家ならわかってもらえると思うのですが(笑)」
この独自の木組みの技法を駆使した建物の一つが、2013年、東京・港区に完成した、隈研吾氏デザインによる「サニーヒルズ南青山店」だ。木材が奏でる幾何学模様の斬新さは、次ページの写真で確認していただくとして、現在、東京大学(准教授)、スタンフォード大学(客員講師)で教鞭も取る佐藤氏が追求してきたのは、そうした「多様な素材による多様な形態を扱う『構造設計法』の構築」である。
「素材に関していえば、通常の木材、鉄骨、コンクリート。また、それらとは異なる、ガラス、銅、アルミ、カーボン、和紙、特殊な糸などもすでに活用したり、構造体としての研究を行ったりしています」
構造設計である以上、安全の確保が最優先の課題であることはいうまでもない。ただ佐藤氏は、「それに留まらず、さらに発展させるという発想で取り組むと、力学に基づいた機能的で美しいデザインを生み出せることが多いんですよ」と言う。
「一例を挙げましょう。柱などに上から荷重をかけていくと、だんだん縮んで、ある時点で横にクニャッと曲がる『座屈』という現象があります。非常に危険なので、本来構造設計では断固避けるべきものなのですが、僕はその現象を単純に避けるのではなくコントロールできないか、と考えました。そこをテーマに研究を重ねた結果、従来あまり例のない構造、例えば細かな部材を幾重にも組み合わせるような建物の設計も可能になったのです」
先ほどの南青山の木造建築や、建築構造分野の代表的な顕彰である日本構造デザイン賞を受賞した「芦北町地域資源活用総合交流促進施設」(熊本県)をはじめ、その成果は数多くの作品に結実している。
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- 佐藤 淳
さとう じゅん/
1970年、愛知県生まれ、滋賀県育ち。
93年、東京大学工学部建築学科卒業。
95年、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了後、
木村俊彦構造設計事務所入社。
2000年、佐藤淳構造設計事務所設立。
国内外の著名な建築家と協働し、構造設計を手がける。
主な作品に
「公立はこだて未来大学研究棟」「地域資源活用総合交流促進施設」「Sunny Hills Japan」など。
東京大学准教授。スタンフォード大学客員講師。構造設計一級建築士。