チーフアーキテクトのリカルド・トッサーニ氏と、チーフデザイナーの糸田敦子氏が出会ったのは、二人がかつて働いていた米国ロサンゼルスの建築事務所である。互いの建築に対する情熱に共鳴し合った二人は、共に長期休暇を取得して日本へ旅立った。なぜ、行き先が日本だったか？　それは、リカルド氏が若い頃から日本の建築に強い興味を抱いていたからだ。

「みなさんは、建築作品を見て息をのむほど感動した経験はありますか？　豪州で暮らしていた19歳の頃、丹下健三氏が設計した代々木競技場の写真を初めて見た瞬間、心が震えました。その時から、いつか日本に行きたいと思い続けていたのです」

滞在中、二人は日本の建築のルーツを辿ったり、様々な作品をリサーチしたりする傍ら、いくつかの仕事を引き受けた。そのなかで、リカルド氏は、「日本での仕事は、申請プロセスのスピードが速く、特に施工の精度が高い。建築家として活動するには最高の場所だ」ということに気づいたのだという。そして、糸田氏と共に、日本で事務所を立ち上げることを決意。１９９７年、建築設計事務所、リカルド・トッサーニ・アーキテクチャーが産声を上げた。

同事務所は、「基本的に、クライアントからの依頼に対して、〝ノー〞とは言わない」。住宅、ホテル、病院、チャペル、介護施設、保育施設、店舗などの建築設計やインテリアデザイン、都市計画など様々なプロジェクトに携わっている。

そのすべてに共通するのは、リカルド氏がかねてから持っている信念。「建築とは、建物だけでなく周辺環境、社会的背景、内部空間、インテリアなどのすべてを融合し、大きな視点で捉えるべきもの」として、担当プロジェクトにかかわるすべてを総合的にデザインしている。
「例えば、チャペルのプロジェクトに携わった際は、チャペルそのものだけでなく、ベルタワー、建物内の教壇、インテリア、小物・アクセサリーなどを形づくるすべてを手掛けました」

こうした信念を貫くには、あらゆるデザイン領域において総合的な対応力が求められる。当然ながら、それにスタッフ全員が応えられなくてはならない。そのため、リカルド氏は、「プロジェクトは複数人のチームで対応していますが、リーダー以外のメンバーをあえて固定しないようにしている」と言う。「それは、スタッフが同時に様々なプロジェクトに参加し、より多くの事例を経験できるようにするのがねらい」とのこと。

在籍するスタッフは、常時10〜15名。いずれも、海外で働いたことのある日本人や、母国で学んで日本にやって来た外国人など、何かしら海外での異文化体験を有しているという。

「彼らには、それぞれの経験から培った文化的な理解力、そして豊かさがある。そんな人材がそろっていることが、当事務所の一番の強みといえます」

ゆえに、クライアントも文化的背景の豊かな個人・企業が多い。「例えば、イギリス人男性と日本人女性のご夫婦から依頼された、邸宅の建築設計プロジェクト。和と洋の文化を融合したデザインを、というリクエストのもと、ご夫婦それぞれの文化的背景や、生活スタイルを理解し、モダンかつ日本的な要素を表現した『Ｒレジデンス』を完成させました。これは、〝マルチカルチャー〞な当事務所だからこそ提案できた事例だと思います」とリカルド氏。

「当事務所に依頼をくださるクライアントの多くは、多彩なバックグラウンドを持つ私たちに、要望への深い理解とユニークなレスポンスを期待してくださっているのです」

国際色豊かなスタッフと共に、自らの信念に基づいた建築を実現していくリカルド氏。これからの未来をどう思い描いているのだろうか。

「当事務所のスタッフに共通することは、建築家としての強い信念と志を持っていること。彼らは、自らが創り出すものから、大きな感動を生み出したいと考えています。そんな若き建築家たちの創造性が花開く環境をさらに整えていきたい。それが、私の一番の願いです」