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〝意匠〞と〝機能〞を、論理的な思考で融合。<br/>最適解はそこにある

〝意匠〞と〝機能〞を、論理的な思考で融合。
最適解はそこにある

岡 由雨子建築ディザイン 岡 由雨子

パリの学校を卒業後日本の建築界へ

幼い頃から岡由雨子氏はフランスの整然とした街並みに魅了されていた。画家である父親がアトリエを構えるパリで生まれた岡氏は、その後教育のために両親と帰国、鎌倉で暮らしつつ、学校の休暇には父が活動拠点とするフランスで過ごすように。

高校卒業後、いったんは理系に進みながらも自分の進路に迷いを持つ。その春休みに再度パリを訪れ、フランスの街並みをあらためて眺めたことで、これが自分のやりたい建築だと確信。その足でパリの美術学校を回り、面接を受けて進む道を決めた。

「フランス語、うまく話せなかったのですが」と岡氏は笑う。

学校では室内建築を専攻。フランスは古い建物が多いことから、外壁4面を残して内部のみをつくり直すことが主流であり、構造や法規に加え、プロジェクトマネジメントまで〝総合的〞に学ぶ。卒業すると同時に、フランス室内建築士評議会から室内建築家としても認定された。しかし岡氏は卒業後に帰国し、磯崎新アトリエに入所する。

「フランスと違って、日本ではどんどん新しい建物が生まれます。若い人たちも活躍でき、自由そうに見えたのです」

磯崎新アトリエでは、都市計画からインテリアまで、様々な実務を経験した。世界を動かすような人物たちの仕事を間近に見ることもできた。いつかは自分の事務所をつくりたいと思っていた岡氏は、2人目の出産を機に独立する。子供が生まれた数日後に会社を登記。最初の仕事は、出産した当日に病室で依頼されたという。

独立後、岡氏の最初の作品となった「にしはらのながや」は、施主の住居を含めた集合住宅である。それぞれ立ち上がる4棟の建物をブリッジでゆるやかにつなげ、「開かれたコミュニティ」というコンセプトを表現した。この形状は窓辺から隣人の気配が感じられるだけでなく、各戸の熱をお裾分けし合うという環境面からの理論的なデザインでもある。

その後、この思想は稲村ガ崎個人邸に引き継がれる。家族が長い時間を過ごすリビングルームを、半円形の平面の中心に配置し、2層吹き抜けにすることにより、リビングで暖めた空気を上階の居室に循環させている。また、半円形にすることで、それぞれの窓が別方向を向き、採光や眺望に変化をもたせることができた。

最近手がけた「モンパルナスプロジェクト」は、かつて「池袋モンパルナス」と呼ばれた歴史的背景を持つ土地に建てられた賃貸集合住宅だ。ゆるやかな切妻屋根のファサードに貫かれたヴォールドの天空通路が印象的な建物は、静謐な空気をたたえる内部とともに意匠の美しさが際立つ。しかし、「設計のデザインとは意匠的なことだけではない」と岡氏は言う。

「機能をどのように造形の中に取り入れていくかが、デザインするということです」意匠と機能を結び付けながら設計にアプローチするために、岡氏は「オーガニグラム」という手法を用いる。建築に対するいろいろな要素を視覚化し、最適な設計を導き出すための作業だ。例えば、モンパルナスプロジェクトの場合、施主から古いヨーロッパの修道院やアトリエなどのイメージ写真を多数渡された。その中にどのような共通の要素があり、施主が何に惹かれているのかを分析、紙に書き出していく。要素を並べながらチャート化し、法規的な用件や必要な機能なども加え、それらを結び付けていくことで理論的に建物のデザインが決定されていく。

「オーガニグラムを作成することで要件がクリアになり、そこへ向けて最適なデザインを進めることができます」

BIMを取り入れ知的財産を蓄積する

現在手がけている函館のプロジェクトは、より大規模な賃貸集合住宅になる。これも実験的な要素のある賃貸住宅だが、今まで以上に〝経済性〞が大きな要件として求められている。

「経済性と意匠のバランスの取れそうなラインを見いだすのに試行錯誤しています」

そのため、この設計はすべてBIMで進められている。ライフサイクルコストを予測するうえで必要な材料、数量などを設計段階からリスト化すれば、経済性が求められる賃貸住宅を合理的に設計できるのではないかという試みだ。

さらには、設計の生産性も高めたいのだという。今までの日本の設計手法では、矩計を切らない部分は現場での対応が求められ、その度につくられるスケッチはデータ化されず、その場の担当者レベルで共有して終わることがほとんどだ。しかしBIMを使うことにより、納まりを設計の時点で具体的に掴むことができるうえに、テンプレートとして情報を蓄積できる。BIMにより情報を蓄積することは、事務所の知的財産を増やすことでもあるという。

「私たちの世代は個人が〝大建築家〞を目指すのではなく、個々が協働し、事務所でいろいろな人の力を合わせることを考えるべきです。そのために、私とは別の〝事務所という人格〞が保有する、〝デザインという財産〞を蓄えていこうと考えています」

PROFILE

岡由雨子

岡由雨子

おか・ゆうこ/
1979年、パリ生まれ、鎌倉育ち。
2004年、アカデミー・シャルパンティエ(フランス)室内建築/

ディザイン修士課程修了。
同年、株式会社磯崎新アトリエ入社。09年に独立し、株式会社O.A.D.設立。
15年、岡由雨子建築ディザイン株式会社に社名変更。

岡由雨子建築ディザイン株式会社

所在地/横浜市中区南仲通4-43 馬車道大津ビルB01
TEL/045-319-4425
http://www.okaarchitecturedesign.com/

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