リノベーションの知見とデザインで、建築の未来に新たな価値を生み出す
株式会社リビタ 建築ディレクション部
蓄積したノウハウで仕組みをデザイン
同社は、まだ「リノベーション」という言葉自体が一般的ではなかった2005年、その専門会社として設立された。1級建築士の資格を持つ小野司氏は、「家を買うにしても、新築か中古かの2択しかない時代に、ライフスタイルに合わせて中古住宅を造り替えるリノベーションを提案し、市場開拓の先頭を走ってきました。大事にしてきたのは、ただ表装をやり替えるリフォームと違い、そこに新たな価値、暮らし方を創造するのが私たちの仕事なのだ、という信念です」と説明する。
「リノベーションの対象になる古い物件には、何が”隠れて”いるのか、始めてみないとわからない面も多いのですが、当社ではそれをできるだけ事前に予測し、かつ起こった現象にどう対処すべきかの技術的ノウハウがある点、実績を重ねた強みがあります」
現在、1棟、1戸単位でのリノベーション分譲事業や中古を買ってリノベーションのワンストップサービスを提供するコンサルティング事業のほか、法人向けコンサルティング、シェア型賃貸住宅の企画、運営、PM、サブリース事業が中心。
小野氏の所属する建築ディレクション部は13名の体制(14年10月よりコンサルティング部所属)。そうした「すべての事業を技術面でサポートし、デザインのアドバイスを行い、さらに様々なノウハウを蓄積する」のが、主な任務だ。設計業務そのものは外部委託のかたちを取るものの、”丸投げ”するわけではない。
「例えば、私が深くかかわるシェアハウスも、ほとんどが社宅などのリノベーション物件なのですが、一歩間違えると共用ラウンジに誰も来ないような建物になってしまう。そのあたりのノウハウは、やはり普通の設計事務所ではなかなか持ちえません。運営まで一貫して行っている当社ならではの蓄積を生かして企画し、細部までデザインしたうえで、実際の図面を引くところをお願いしています」そうした同社の設計、デザイン機能を、小野氏は「仕組みをデザインする」と表現する。
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「シェア」の価値観を世界に広げたい
最近注目度が高まっているシェアハウスの展開でも、同社はパイオニア的存在である。そこで表現される「仕組みのデザイン」とは、どんなものなのか。「例えばですが、各個室のキッチンを最小限にする、または造らないことで、共用部で一緒に食事をつくって食べてもらうように誘導する。そういう”引き算”の発想も大事で、何でもカッコよく造ればいい空間やいいコミュニティが生まれるかといえば、そう単純なものではないのです」
すでに13棟835室運営しているが、「原宿神宮前にある店舗、オフィスも入ったシェア型複合施設『THESHARE』などでは人が人を呼び、様々な職種、立場の方が入居し、そこでの語らいをきっかけに新しい事業が生まれた」ような例も実際にあるという。
ところで、小野氏には「ONODESIGNUNIT空間デザインプロデューサー」という、もう一つの肩書がある。「当社の中では異色の存在なのですが、3年ほど前から個人的なつながりで化粧品などの店舗や、『リアル脱出ゲーム』といったイベントスペースの空間デザインを請け負っているんですよ。居心地のいい空間を造るという点では、まさにシェアハウスの応用編で、私の中ではいい相乗効果を生んでいます」
今後の目標を聞いてみた。「設計に関しては、リノベーションで学んだソリューションが、ほかでもいろんなかたちで生かせることがわかりましたから、どんどん難しい課題をいただいて挑戦したい。もう一つ、シェアハウスは海外の真似事のような感覚があったのですが、実際に欧米人などを案内すると、例外なく『これは新しい発想だ』と驚くんですよ。シェアして暮らすことによって育まれる日本的な価値観や倫理観。そういうものを輸出したい、というのが夢です」
- ONODESIGNUNIT空間デザインプロデューサー 小野 司
Tsukasa Ono おの・つかさ/2000年、工学院大学建築学部建築学科卒業。
早川邦彦建築研究室に約2年勤務し、独立を果たす。
その後、パルフィ総合建築計画、神﨑建設の勤務を経て、
07年、リビタに入社し、建築ディレクション部に配属。
14年4月、同部内に自身がリーダーを務めるONODESIGNUNITが設置された。
1級建築士。