力学原理に基づく建築構造に、合理的無駄を”遊び”として追加。長い歴史と先端技術から”解”を導く
法政大学 デザイン工学部 建築学科 構造計画研究室 浜田研究室
RCシェル構造で水滴の形を表現
浜田英明准教授は、名古屋大学にて「構造形態創生法による自由曲面を持つRCシェルの構造設計法の提案」で博士号を取得。豊島美術館(香川県)では水滴をモチーフとした西沢立衛氏による設計を、RCシェル構造により現実化させた。
浜田氏が思い描いていた建築家とは、理論的背景のもとに設計を行うイメージだった。そのため、進学した名古屋大学で当初学んだ設計の授業は、単に線を引いているだけとしか思えなかったという。一つひとつの線や形の意味を力学的に把握したいと悩んでいた時に、当時大学で教鞭をとっていた著名な構造家でもある佐々木睦朗教授に出会う。
「感性だけではなく、力学理論に基づいて造形を生み出すことに興味を持っていたので、抱いていた建築家のイメージは実は構造家に近かったのです。佐々木先生のおっしゃることは私にドンピシャでした」
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修士課程修了後は、博士課程で学びながら佐々木睦朗構造計画研究所に入所し、磯崎新氏、伊東豊雄氏、妹島和世氏などの作品に携わることになる。
「建築家の意図を理解しながら、それを技術的に実現するのが構造家の醍醐味。今後はますます、構造計算だけでなく、新しい形態を建築家と協働して創造できRCシェル構造で水滴の形を表現る能力が要求されるでしょう」
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それまでの研究テーマが端的に表れたのが豊島美術館だ。西沢立衛氏がイメージした水滴の形状を最大限に保ちながら、構造性能を確保。コンピュータの処理能力に助けを借りながら実現した世界的にまれな扁平なRCシェル構造となった。
2013年に法政大学に着任。構造力学や数学のほか、川口衞氏から佐々木睦朗氏に引き継がれてきた法政大学の歴史ある授業「空間の構造デザイン」を担当する。構造解析が出現する以前から歴史的に存在する構造形態を、人類はいかに獲得してきたのか。過去の構造形態の発展を学ぶことで、自然に力の流れが見えるようになることをコンセプトとして教えている。
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また、研究室ではコンピュータやAIによる構造設計に加え、今まで総括されていなかった著名構造家の系譜を手繰り、構造技術がいかに展開してきたかを調べている。
「IT技術の発達により、複雑で自由な形態の設計が可能となり、構造計算も容易になりましたが、コンピュータでの設計に手詰まりを感じたのです。コンピュータは特定の問題を解く際には絶大な力を持ちますが、建築の問題は多岐にわたり、複雑。建築は人間のためのもので、建築の良し悪しを判断するのは、人間でなければいけません」
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- 両極に広がる研究を建物に収斂させる
- 準教授 博士(工学) 浜田英明
準教授 博士(工学)はまだ・ひであき
2004年、名古屋大学工学部社会環境工学科卒業。
06年、佐々木睦朗構造計画研究所勤務(~13年)。
11年、名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻博士後期課程修了、博士(工学)。
13年、法政大学デザイン工学部建築学科専任講師。
17年より現職。
共著に『建築形態と力学的感性』(日本建築学会)。
構造設計一級建築士。