技術の進歩によって仕事は変わる。 “創造的破壊”が起こる可能性
公益社団法人 日本建築家協会 専務理事 筒井信也
CM(コンストラクション・マネジメント)業務が普及していくと、最悪の場合、設計は決められたことに従ってデザインをこなすだけの存在に陥る可能性がある。そうならないためには、自らがCM的な発想と機能をもって“川上” に働きかけると同時に、“川下”に対しても、今までとは異なる対応が必要になるのではないか――。前回、そうした「生産方式の大変革」が間近に迫っている、という私見を述べた。それと絡み合いながら進むもう一つの変革が、「画期的な技術革新」である。
業界にBIMが導入されて久しい。膨大なデータを入れ込むことができる半面、現状は使い勝手の課題が指摘されているが、確実にBIMは普及していく。自分たちが使いやすいBIMをつくろうと思っても、設計だけ考えていたのでは十分ではない。BIMを活用した建築生産全体、さらに維持管理まで含め、効率化に設計事務所がどれだけ貢献できるかが、問われている。
もっともBIMの問題は序の口だ。遠からずビッグデータの活用、AIの導入が本格化する時代がやってくる。そのインパクトは測り知れない。
すでにそうした最新テクノロジーを試験的に導入する動きもある。多数の同種の建物をAIにより比較したところ、「建物間の差異は、わずかなものとしか認識されなかった」との分析結果もある。“他とは違う建物”を売りにするアトリエ系の事務所は、本物の“独自性”が発揮できるか、が問われるだろう。
また、社会のニーズの変化への対応にも目を向けておく必要がある。かつて大企業や銀行は、立派な本社・本店ビルを建てて、格式と信用の高さを誇示した。だが、時代は変わり、従業員の働き方の変化に合わせ、外見よりも可変性や様々な機器の設置による機能性の検討が重要になってくる。変化する多様なニーズと機能とのすり合わせには、膨大なビッグデータを蓄積し、AIを駆使できる組織が存在感を増すだろう。
こうしたデジタル技術の進展の先には、従来の業界のあり方を根本的に変える、いわゆる“ディスラプション(創造的破壊)”が起こる可能性がある。
自動車メーカーの中には、内部のすべての部材、部品から外見のデザインまでを一気通貫に設計するデジタル技術を確立し、まずは設計・生産の効率化を成し遂げた会社もある。しかし、それだけでは済まない。この業界は、高度な自動運転システムの開発、さらに新しいサービスを取り込んで、従来の自動車メーカーからの業態転換を志向しているのは周知のとおりだ。
このような話をするのは、他業種の動向はじめ、社会、経済の大きな変化を認識するべきと思うからだ。そのうえで、「我々の業界は他とは違う」という独自性を主張し、既存の設計機能を深めていくのか、“ディスラプター(創造的破壊者)”志向も含め、新しい世界へと進むビジョンを描くのか。それぞれの事務所、そして建築家が真剣に考えるべき時に来ていると思う。
どういう方向に進むにせよ、建築家が世の中から信頼され、必要とされる存在でなければ、話にならない。その価値をどう守り高めていくか、日本建築家協会の取り組むべき大きな課題でもあると考えている。
- Nobuya Tsutsui
筒井信也 1977年、京都大学法学部卒業後、株式会社日本興業銀行入行。
86年、日経マグロウヒル株式会社(現日経BP)入社、記者・編集業務を担当。
92年、企業コンサルタント業務を主とする株式会社都市トータルデザインを設立し、
代表取締役に就任。2010年より現職。