【第25回】日本を社会先進立国に導くために、 建築のプロセスをつくり変えたい
株式会社 山下PMC 代表取締役社長 社長執行役員 川原秀仁
当社は「お客さまの施設参謀」を旗印に、コンストラクションマネジメント/プロジェクトマネジメント(CM/PM)事業を展開している。“お客さま”とは、建物の発注者にほかならない。その立場から今の建設業界を眺めてみると、様々な遅れや課題、しかし裏返すと大きなチャンスが見えてくる。この場を借りて、我々の提言を論じてみたい。
そもそも建設プロジェクトは、発注者にとって“不要な”プロセスである――。のっけからこんなことを言えば、不興を買うだろうか。だが、お客さまの立場になって考えてみてほしい。建物は、極論を言えば事業を遂行するための“入れ物”に過ぎない。工事で発生するのは出費のみで、収益を生むのはそれができた後のこと。求める品質(ボリューム、プラン、スペック、デザイン)と運営サービス(事業運営、資産運営、施設運営)が実現されれば、施工はできるだけ低コスト、短納期であってもらいたい。ニーズはこれ以上でも以下でもないのだ。
ところが、コストや納期にしても、建設後の運営に関しても、その負託に十分応えられているとは言い難い。大きなネックは、企画、基本計画、基本設計、実施設計、発注、工事、運営といったプロセスがステップ・バイ・ステップで進行し、プロジェクトをトータルで最適化する仕組みになっていないところにある。例えば実施設計図書が出来上がってからでは、合理的なコスト配分を実行するのは難しい。計画段階で運営が子細に検討されなかったら、引き渡し後に不具合が生じることにもなるだろう。ネックの解消のためには、従来の単なる“サプライチェーン”から顧客に価値を生む“バリューチェーン”へと、建築のプロセスをつくり変えることが求められているのである。
“詳しい図面”も、あえて言えばBIMも、それを読めないお客さまにとっては、価値がない。わかりやすい設計説明書を作成し、最終的には運営に必要なすべてのデータを竣工図書類(竣工図書・竣工履歴)に集約するデータ管理の仕組みが不可欠だ。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック後も、大量供給のオフィス需要などが期待できるため、建設業界の収益が一気に悪化することは考えにくい。しかし、我々が見るべきは、その先である。世界は今、「第4次産業革命」の波に洗われ始めていると言われる。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)による産業・社会構造の大変革=デジタル・ディスラプションは、すべての産業のあり方を変え、この業界がひとりその埒外に置かれることはありえない。
実は、顧客志向に転換し、バリューチェーンを構築するのは、来るべき変革に生き残り、新たな成長を勝ち取るための下地づくりにほかならない。竣工図書に落とし込んだデータを新たなテクノロジーにつなぎ、バリューチェーンを稼働させれば、大幅な省力化、効率化、“間違いのない”ものづくりが実現するだろう。顧客の満足度アップは、当然、業界の発展に結びついていくはずだ。「ステップ・バイ・ステップのプロセス」と言ったが、分断の壁は諸外国より低い。だから日本市場にはアドバンテージがあるのだが、何もしなければ、GoogleやAmazonが乗り出してくるだろう。日本を社会先進立国に導くためにぜひ、建設業界発のプラットフォームをつくりたいというのが、私の思いである。
- Hidehito Kawahara
川原 秀仁 1983年、日本大学理工学部建築学科卒業後、農用地開発公団、農用地整備公団、JICAを経て、
株式会社山下設計へ。
99年、株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツ(現山下PMC)の創業メンバーとして参画。
現在、同社のCEO・COOとして企業ドメイン全体の構築を担う。
一級建築士、認定コンストラクションマネジャー、認定ファシリティマネジャー。