【第24回】建築士への要望は、時代の変遷と ともにカタチを変え、広がっている
一般社団法人 東京建築士会 専務理事 鴛海浩康
建築士の数が目に見えて減少しているという厳しい環境の下、我々が考えるべきことは何か?
時代が進めば、建築士に求められるものも変わる。例えば、2世帯、3世帯が「別々に同居する」という、かつてなかった住まい方が広まりつつある。バリアフリーに気を配りながら、いかにしてそれぞれの世代にとって快適な住空間を創造するのかは、すぐれて設計の仕事だ。
大きな流れをみれば、黙っていても新築住宅の設計依頼がどんどん舞い込んだのはとうの昔の話で、今現在はフローではなくストックの占めるウェートが格段に高まっている。そこにあるものをどうリニューアルして蘇らせるか、長持ちさせるのかが問われるのである。都市部などでも増加する“空き家”に目を向ければ、それが喫緊の課題であることが理解できるだろう。
公共建築にしても、単体のハコモノを量産する時代は終わった。多様な機能を持つ複合建築でないと、建物自体が生き残れない。少子高齢化という視点からは、「老若男女が使える」施設に、というニーズも当然のように提起されるはずだ。
今の時代、環境への配慮を抜きにした建築物が容認されることはない。自然エネルギーや電気自動車を組み込んだスマートシティにおいては、ただ省エネ性能に優れるだけではなく、“スマート化”への貢献が求められていく。地震をはじめとする自然災害に対する万全な備えが必要なことは、あらためて述べるまでもないだろう。
思いつくままに列挙したが、こうした多様で複雑なニーズに応えた建物をつくるためには、我々建築士の知識や経験が欠かせない。建築士が提案者、あるいはアドバイザーとなって、それらの課題を実現していかなければならないのである。言い方を変えれば、そこに我々の活路、チャンスがあるのではないだろうか。
前回、建築を志す学生自体が減っている、という話をした。志すためには、建築に魅力を感じてもらわなくてはいけない。「それは何か?」と問われたら、私は「オリジナリティのあるものが、自分がいなくなった後もずっと残っていくことです」と答える。
さらにいえば、建築家の仕事を建物に限定する必要は、まったくない。例えば、関西国際空港旅客ターミナルビルを設計した岡部憲明氏は、小田急ロマンスカーのデザインにも携わった。“つくり直し”になった東京オリンピックのエンブレムの作者・野老朝雄氏は、学生時代に建築を専攻した人である。ヨーロッパなどでは、建築以外の様々なプロダクツのデザインに建築家がかかわるのは、当たり前のことになっている。建築の技量が、幅広い可能性を秘めたものであることをぜひ知ってほしい。
やはり、教育は重要だ。欧米では、幼児教育の段階から、「自分の住まいの図面を描いてみなさい」といった教えが施されていると聞く。工業高校を除けば、ほとんど高等教育まで建築に触れる機会のない日本とは、大違いだ。
遅ればせながら、我々の団体では、小学校の課外授業に出かけて行って、子供たちに段ボールで家や椅子をつくってもらう、という取り組みを始めた。評判は上々で、学校からのオファーも増えている。そうした機会がなかっただけに、子供たちはみな嬉々として作業に取り組むのだ。将来の建築を支える人間が育ってほしいと願いつつ、そんな草の根活動にも力を入れていきたいと思っている。
- Hiroyasu Oshiumi
鴛海浩康 1977年、日本大学理工学部建築学科卒業後、建築雑誌社の編集者に。
79年、一般社団法人東京建築士会に入社。
各種講演、講習など建築士資格研鑽事業、顕彰・展示会事業の企画・
立案、実施を担当する。2013年より専務理事に。
関東甲信越建築士会ブロック会常務理事、公益財団法人東京都防災・
建築まちづくりセンター理事、全国設計事務所健康保険組合選定理事ほか。
一級建築士。