【第21回】人手不足、高齢化など問題山積の日本。 建築ができることを真剣に議論しよう
東京都市大学 工学部建築学科 教授 小見康夫
今、建築生産が直面する最大の問題は、人手不足である。特に施工に携わる人手の不足は、東日本大震災の復興や、東京オリンピック関連の建築需要を契機に急速に表面化したが、これらの“特需”が過ぎ去っても、抜本的な解消に向かうとは考えにくい。労働力となるべき若者人口の減少という現実がある限り、将来にわたって、じわじわとその深刻さの度合いを高めていくだろう。
建設の現場は、かつて「危険、汚い、きつい」という“3K”職場の代表と称されたものだが、今はそれに「給料が安い、休暇が少ない、カッコ悪い」が加わった“6K”だそうだ。建設業以外でも人手不足は顕在化しており「ほかにも仕事はある」状況下、建築生産の担い手を安定的に確保するのには、大きな困難が伴う。このままでは移民を受け入れでもしない限り、人手不足は解消できそうにない。そのうえ“働き方改革”で残業時間が厳しく規制されるようになると、現場管理という仕事まで立ちいかなくなりかねない。
こうした状況は、建築を学ぶ学生たちの将来にも影を落とし、ここにきて学生の施工離れが散見されるようになってきた。この状況を打破するには、今後革新的な生産性向上が必要となろう。BIMをはじめとするICTやロボット技術への期待は大きい。大学教育においてもこの分野の人材育成にもっと力を入れるべき時に来ている。
若者の減少=高齢化は、別の観点からも、建築に対して大事な問題提起をしているように思う。我が国は10年前に超高齢社会に突入した。2025年には団塊の世代が雪崩を打って後期高齢者の仲間入りをするといった現実がある。建物のバリアフリー化などは進みつつあるものの、“地球温暖化対策”や“地震対策”などと比べ、建築の世界は、まだこの問題と真正面から向き合えていないように見える。
それは、我が国が世界で最も早くこの問題と直面しており、海外の先進例に学ぶことが難しいことと無関係ではなかろう。
戦後の焼け野原から劇的な復興・成長を遂げた我が国は、都市とその郊外を貪欲に開発した挙げ句、今や縮退を余儀なくされている。一極集中の東京では、都心部のみが“シンガポール化”して賑わうものの、郊外は高齢者住宅と空き家だらけ、といった未来も決してフィクションではない。そういった流れを断ち切るために、建築がどうあるべきかを、真剣に議論すべきだと思うのだ。
もちろん、これは社会全体の“意地悪な問題”であり、建築家や個別の建築で到底解決できるものではないが、例えば、従来の“問題解決型デザイン”ではなく、問題自体を発見・提示する“スペキュラティヴ・デザイン”によりコミットすることも一つの方法ではないだろうか。
また、地域の問題を一つひとつ解決していくためには、リソースを発掘し、つくり手とニーズを結びつけ、あるいはファンディングに道筋をつける――。そういった仕組みづくり、様々なブリッジングを担う人が不可欠だが、重要なのは、その担い手が建築をよく理解していることだ。
一方、建築とは元々、何かと何かをブリッジングしていく営みだ。今や、建築的マインドを持った人材が、様々な世界で必要とされる世の中になりつつあるともいえる。その意味では、設計や施工といった職能に限定する必要はなく、これまで以上に幅広い視野をもった人材育成のための建築教育が必要と、私は感じている。
- 小見康夫
Yasuo Omi 1985年、東京大学工学部建築学科卒業。
積水ハウス株式会社勤務後の95年、東京大学大学院博士課程修了、
博士(工学)。設計事務所、A/Eワークス協同組合設立などを経て、
2005年、武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部建築学科講師、
08年、准教授、13年より現職。専門は建築構法・建築生産。
近著に、『3D図解による建築構法』(市ケ谷出版社:共著)がある。