製造業で培ったDX支援技術で、 BIMの可能性を広げていく
株式会社コアコンセプト・テクノロジー 取締役 SI事業本部 本部長
私は、大学卒業後の2002年から7年ほど、金型の自動設計で先進的な開発をしていたベンチャー企業、インクス(現SOLIZE)に在籍した。顧客の工場に常駐してソフトウェア開発に取り組む日々を経験し、今につながる3次元データを扱う技術の基本を体得することができた。
同社の先輩であり現社長の金子武史らの誘いで、コアコンセプト・テクノロジーの設立に参画したのは、09年のことだ。大まかに言えば、インクス時代に培った技術、経験を生かし、製造業の顧客向けのシステム開発に取り組むのが目的の会社だった。製造業の顧客に対しPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)などの導入支援のほか、ここでも顧客のもとで、一エンジニアとして現場に必要なシステム開発を行ったりもした。
起業して実感したのは、そのように現場・現物を理解してシステムづくりをするIT企業は意外に少ない、という事実である。あらためてそこが我々の強みだったことに気づき、「現場を理解したシステム開発」に軸足を置いてビジネスを展開する、という方向性を定めた。
「現場でCADを使わずに3次元データを見たい」という工場のニーズをかたちにしたのが、当社が開発した「Orizuru」というビューアソフトだ。3次元の精密な大容量データをブラウザで自在に動かせる仕組みは、リリース当時は稀で、目論見どおり製造業に広く受け入れられた。そして、建設業界との縁を結んだのも、この3次元ビューアだった。設計の現場で、まさにそうしたシステムを探していた竹中工務店に採用されたのだ。
竹中工務店のやりたかったことをひとことで言えば、すべてのプロジェクトに関するBIMデータを一元管理するポータルサイトの構築である。意匠設計の方がそこにデータを格納し、構造設計、設備設計の方々が、それを基に自らの設計を行っていく。各職能の人が、そこにあるのが常に最新の情報だと認識できれば、滞りなく仕事を回すことができるだろう。そうしたポータルサイトには、「Orizuru」のようなビューアが不可欠だった。
この仕組みに、新たな発想によるBIMのプラットフォームが採用されたことも特筆すべきことだと思う。これもごく簡略化して言うと、BIMモデルの中に属性情報をどんどん入れ込んでいく、という従来のやり方を変え、あえて情報と形状を分離して管理するという手法を取り入れたのだ。これにより、専用のソフトがなければ閲覧できなかった3次元データがブラウザで簡単に閲覧できるようになり、設計変更時にもプロジェクト関係者が迅速に最新情報を共有することが可能となった。
システムの本格的な活用が始まったのは昨年からだが、同社が23年10月以降に基本設計に着手した全プロジェクトで原則適用が決まっている。
同社の取り組みを皮切りに、10社を超える建設業のお客さまの支援をさせていただいている。現在、当社のDX支援事業に占める建設業向けの売上比率は3割弱と、製造業に次ぐところまで高まった。建設業界にそれだけのニーズがあった、ということの裏返しと言えるのではないだろうか。
ところで、建設業界における各社DXの取り組みは、現状では設計と施工で独立した活動になることが多く、設計と施工が密につながっている例は少ない。そうしたところに「建設業界のDX」の課題が見えるようにも思う。次回は、そのあたりの私見を述べてみたい。
Hajime Tsunoo
- 2002年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了後、株式会社インクス(現SOLIZE)
入社。大手小売業の株式会社ニトリを経て、09年、株式会社コアコンセプト・テクノロジーの設立
メンバーとして参画、IT人材調達支援事業の立ち上げや多数のシステム開発案件に従事。12年、
執行役員に就任、人事統括責任者として人材育成・採用力の強化に注力。16年、取締役に就任。