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全建設業者をBIMでつなぐハブとして、 業界のDX・効率化を促進する企業の挑戦 野原グループ 「BuildApp」の取り組み

建設業界が抱える課題を解決するため、建設DXを推進する野原グループ株式会社が、BIM設計・製造・施工支援プラットフォーム「BuildApp(ビルドアップ)」の開発を加速させている。今回は、同社のグループCDOであり、「建設DX推進統括部」のトップを務める山﨑芳治氏に、本プロジェクトが目指す狙いと、そこから見えてくる建設業界の未来予想図についてうかがった。

BIMデータ活用を業界全体に浸透させる

就労人口の減少や労働生産性の低さなど、現在、建設産業は多くの課題に直面している。この課題解決の切り札になり得るのが「BIM」という理解は広まっているが、実際の導入・稼働はいわゆる〝大手〞に偏っており、資金面の問題や技術習得の難しさから各下請会社、建材サプライチェーンなどの中小企業までは普及が進んでいない。建設プロセスの上流ではBIMのデータが存在するのにもかかわらず、下流では活用できていないのが現状だ。「BuildApp」は、このような課題に対処するため、すべての建設プロセスにかかわる人たちに向けてBIMデータ活用支援をするサービスだ。BIM専用ソフトを使わず、データを必要に応じた形式に変換して活用することで生産性の向上を目指している。

同システムの開発を手がけているのは建材商社・野原グループだ。同社のグループCDOであり、建設DX推進統括部のトップを務める山﨑芳治氏は、開発の意義を次のように語る。

「弊社はこれまで建設会社と建材メーカーのハブとなり、建材を流通させてきました。そのポジショニングを生かし、BIMデータの橋渡し役を果たすのが『BuildApp』です」

過去に製造業のDX化に尽力してきた山﨑氏の目から見て、建設業のDXはまだまだ進化途上だと指摘する。「業界全体を変えていく」という熱い思いを持つ野原弘輔社長の描く事業戦略を具現化するため、2018年に同社に入社。まずは社内のデジタル化を推進した後、21年に「BuildApp」の始動を発表。そこから実証実験に入り、サービスの本格的なリリースに向けて準備を進めている。

設計積算、製造、流通、施工管理、維持管理をとおしたサービスを目指す「BuildApp」。今夏から「内装」と「建具」のサポートを本格展開する予定だ。「内装」では施工BIMデータを基盤として、製造・組み立てレベルにまで詳細化したBIMモデルを自動生成し、建材選定から見積もり管理を自動的に行う。さらに、詳細化したBIMデータをもとに、石膏ボード・LGSの割付モデルを出力。工場でのプレカットの利用が促進できれば、施工時間短縮や廃材削減につながる。

「プレカットした材料にQRコードを付与することで、コードを読み込むだけで当該施工箇所に間違いなく搬入・作業でき、施工終了後はアプリをクリックするだけで完了報告ができる。大手ゼネコンなど数十社の協力を得て実際の現場でプレカットによる施工性と採算性のバランスなど、〝リアルな実証実験〞を重ねながら検証しています」

マクロ的に見なければ建設DXは進まない

現在は2つの工種が先んじているが、将来的には建設プロセスすべての工種を網羅し、さらにはそれぞれの工種連携も処理できるシステムを目指していると山﨑氏は展望を語る。

「ただ、全体のシステムが完成したとしても改良は絶えず行われるものであり、最終的なゴールはまだ見えません。また、本システムの提供が始まっても、効率化のための費用負担をどこが担うのかという課題もあり、建設業界全体の意識改革が必要だと感じています。誰かがマクロ的な見方をして進めなければ建設業界のDXを進めることはできず、我々が本システムを開発する意義はそこにあると考えています」

「BuildApp」の開発を進めるDX推進統括部のメンバーは、建設業界とIT業界出身者が半々。多くは大手ゼネコンや設計事務所からの中途採用者だ。共通している転職理由は、建設業界への課題感と会社単位では解決できないジレンマだという。

「〝建設業界を変えたい〞という社会的使命が各人それぞれの根底にあるうえで、BIMなどのスキルや経験を持つ人材が集まってきています。今後は、さらなる高度IT技術との融合を目指しているため、プログラム開発に携われるような人材も求めています」

今、同社は建設DXによる業界変革をミッションに掲げているが、「BuildApp」はあくまでも業界基盤としてのシステムであり、まだ事業の主役ではないと山﨑氏は説明する。

「これまでは社内のDXを推進するために『BuildApp』が弊社の各事業部を牽引してきましたが、主従逆転をする時期が訪れています。『BuildApp』の本格展開によって各事業の効率性を向上させるため、DX推進統括部のメンバーが各事業部とのパイプ役として機能する必要があります。そのため、建築の知識やデジタルの専門性だけでなく、ビジネスの視点も求めていきたいと考えています」

BIMは、〝建設プロセスそのもの〞である。そのため、フロントローディングを進めるには、単にシステムを導入するだけでなく、建設プロセス全体の変革が必須であり、その困難さを山﨑氏は認識しているという。

「当初に描いていた理想のフロントローディングのあり方から外れたとしても、日本の建設業に適したDXが必ずあるはずです。そのためには理想を追い求め過ぎず、まずは生産性を向上させる道を模索していきたい。我々の挑戦が現実のものになれば、子供たちの〝なりたい職業〞の上位に建設業が上がる未来が必ず訪れると信じています」

PROFILE

山﨑芳治

山﨑芳治
Yoshiharu Yamasaki
野原グループ株式会社
グループCDO 建設DX推進統括部 統括部長

1994年、HR系ベンチャー企業に入社し、6年勤務後に独立。売り上げを伸ばす仕組みづくりを
主とするマーケティング領域で実績を積む。
2007年、商社機能を併せ持つメーカーに入社。経営・事業戦略を実践で学びながら、
BtoB系EC、グローバルのマーケティング統括を経験する。
18年9月、現野原グループ株式会社代表取締役社長兼グループCEOの野原弘輔氏との
出会いを経て同社に入社。21年7月より現職。

野原グループ株式会社
創業/1598年
代表者/代表取締役社長兼グループCEO 野原弘輔
所在地/東京都新宿区新宿1-1-11
https://nohara-inc.co.jp/