アーキテクト・エージェンシーがお送りする建築最先端マガジン

Architect's magazine

そこにいる人、働く人、住む人が どう輝けるか。建築はそのための装置。 人間の意識を拡張する場所として 存在するものだと思う

そこにいる人、働く人、住む人が どう輝けるか。建築はそのための装置。 人間の意識を拡張する場所として 存在するものだと思う

小堀哲夫

 新時代の建築家として、小堀哲夫がその名を知らしめた作品は、やはり「ROKI Global Innovation Center-ROGIC-」だろう。この研究開発施設は環境建築としてだけでなく、従来の概念を打ち破るものとして高く評価され、2017年、日本建築学会賞とJIA日本建築大賞の2大タイトルをダブル受賞した。光や風といった自然要素との融合は、小堀の〝核〞となるテーマで、手がけてきたすべての建築に貫かれている。自然の素晴らしさや世界の多様性、そして、〝生〞が中心にあることを感じさせる建築とは何か――小堀の純然たるエネルギーの源は、その飽くなき探究にある。

両親から影響を受け、必然的に選んだ道。迷いなく建築家を志す

 小堀は岐阜県で宮大工の棟梁をしていた父親の背中を見て育った。幼い頃から仕事場に出入りし、「厳しそうな世界ながらもカッコいい」と感じていたという。元来、ものづくりが好きなこともあり、大工に憧れを持つようになったのは当然の成り行きであった。

 父親は、自分の勉強と家族旅行を兼ねて、伊勢神宮や比叡山延暦寺など、いろんなところに連れていってくれました。おぼろげながら、とても荘厳な空間だったことを覚えています。「後を継げ」と言われたことはないけれど、子供の頃から大工はすごい」という憧れの気持ちが強く、いずれは自分もなりたいと思っていました。

記憶に強いのは、小・中学校の9年間を通じて取り組んだ岐阜県の児童生徒科学作品展です。自由工作とか、植物・昆虫の研究とか、自然科学をテーマにした研究作品を出すんですけど、毎年のように最優秀賞をもらっていたんですよ。マジでしたから(笑)。実はこれ、母親の影響が大きいんです。彼女は学習意欲が高く、たぶん僕と一緒に学びたかったのでしょう。「興味があることを一緒にやろうよ」と。当初は母親が熱心だったのですが、だんだん面白くなり、テーマも自分で決めるようになったし、何より自然科学に対する興味が培われたことは、すごく大きかったと思いますね。

あと、母親は地元が輩出した偉人の話をよくしていました。明治建築界の巨匠である矢橋賢吉や、日本武道館をつくった山田守のこととか。通った大垣北高校の先輩でもあり、話を聞いているうちに、僕も東京に行くものだと。職業イメージが大工から建築家に移っていったのもこの時期です。独立心が芽吹いたというか、気がつけば、地元を出て自分一人でチャレンジしたいという気持ちが膨らんでいました。

「地元で公務員になればいい」と、父親には大反対されたが、上京への思いは強く、小堀は法政大学の建築学科に進路を取る。ただ、本当の意味で建築の面白さに目覚めるのはまだ少し先の話で、大学時代は「山にしか行っていない」というほどに、登山に没頭した。「建築の勉強もしたけれど、山から、そして自然から教えられたことが大きかった」と振り返る。

 最初の1年間は空手部に所属していたんですよ。自分の身体的な力でどこまで挑戦できるか……何か、そういう欲求があって。その空手部の仲間と伊豆七島にキャンプに行った際、えも言われぬ解放感を得て、野性の感覚に目覚めちゃった。で、自分たちで探検サークルを創設し、山に登り始めたら完全にハマったというわけです。いきなり難しい北穂高岳から槍ヶ岳へと進むなものでしょう。そして、そこにある光や雲、風はすぐに変化する有機的なもの。それらが合わさっているところに命を感じるのです。建築を通じて命の本質に触れること、それを教えてくれたのは山でした。縦走ルートをやって、危ない目にも遭ったけれど、ギリギリの緊張感のなかで厳しく、優しく、美しい自然と一体化するという感覚に痺れましたね。

テント一枚かついで誰もいない世界に行くと、自然のみならず、生きることや死ぬこと、つまり命に向き合うことができる。僕の建築の原点はここにあります。いわば山も建築で、無機質なものでしょう。そして、そこにある光や雲、風はすぐに変化する有機的なもの。それらが合わさっているところに命を感じるのです。建築を通じて命の本質に触れること、それを教えてくれたのは山でした。

【次のページ】
海外の都市調査を通じて建築をより深く学び、今日の礎を築く

ページ: 1 2 3 4

PROFILE

小堀哲夫

小堀哲夫

1971年9月29日 岐阜県大垣市生まれ
1997年3月 法政大学大学院工学研究科
建設工学専攻修了
株式会社久米設計入社
2008年11月 株式会社小堀哲夫建築設計事務所設立
2014年4月 法政大学兼任講師
2020年4月 法政大学デザイン工学部建築学科教授
家族構成=妻、娘1人、息子1人

主な受賞
2017年、「ROKI Global Innovation Center -ROGIC-」で日本
建築学会賞、JIA日本建築大賞を同年史上初のダブル受賞。
2019年、「NICCA INNOVATION CENTER」で2度目のJIA日
本建築大賞を受賞。ほか中部建築賞、SDA賞、JIA環境建築優
秀賞、BCS賞、日事連建築賞「国土交通大臣賞」、AACA(日本
建築美術工芸協会)賞優秀賞、デダロ・ミノッセ特別賞など多数。

人気のある記事

アーキテクツマガジンは、建築設計業界で働くみなさまの
キャリアアップをサポートするアーキテクト・エージェンシーが運営しています。

  • アーキテクトエージェンシー

ページトップへ