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建築士事務所の健全な発展の支援が使命。 BIMを起点にDX化を啓蒙、応援する

建築士事務所の健全な発展の支援が使命。 BIMを起点にDX化を啓蒙、応援する

一般社団法人 日本建築士事務所 協会連合会 の取り組み

一般社団法人日本建築士事務所協会連合会(日事連)は、2022年にポータルサイト「BIM GATE」を開設するなど、BIMの啓蒙活動を推進。今回は安井建築設計事務所執行役員であり、日事連で「BIMと情報環境ワーキンググループ」委員を務める繁戸和幸氏に、日事連の全国の建築士事務所に向けたBIMを起点としたDX化支援の取り組みをうかがった。

多様な活動を継続し、BIM導入を支援

 一般社団法人日本建築士事務所協会連合会(日事連)は、建築士事務所を構成員として都道府県ごとに設置された建築士事務所協会を会員とする法定団体だ。建築士事務所の発展と建築主の利益保護を主な目的として多様な活動を展開するなか、「建築BIM推進会議」(国土交通省)が設置された前年の2018年に「BIMと情報環境ワーキンググループ(WG)」を立ち上げた。

「将来的に懸念される建築士の高齢化と人手不足という課題に対して、BIMはブレークスルーの一助になりそうだと感じていました。しかし、事務所の規模や地域によってBIMの普及には大きな格差があり、その解消を目的として中小事務所に寄り添った普及活動を進めたいと考えました」と同WG委員の繁戸和幸氏は設立趣旨を語る。

 現在、同WGは9名のメンバーで運営されており、年4回開催される会議で情報共有を行いながら、各メンバーがそれぞれの担当に分かれ活動を行っている。設立直後から現在まで実施しているのが、BIM普及のためのセミナーだ。事務所経営者層を対象にした啓発セミナーから始め、建築界の現状と国の方針を説明しながら、事務所へのBIM導入の理解を促進してきた。

 さらに、23年度からは、国土交通省の「建築BIM加速化事業」の採択事業として、実践的な研修である「BIM技術者に対する技法、技術研修」を開催。実習を交えた研修と実際の建設プロジェクトを作成する演習の2段階で構成され、BIM設計の一連のスキル獲得を提案。定員を上回る多くの応募があったことから、24年度は定員を倍に拡充。また、建築士資格の有無にかかわらず、同一事務所から複数名が参加できるよう応募の範囲を広げている。今後も、経営者への啓蒙と技術者養成の双方を継続していく計画だ。

地方の中核都市でもユニークな取り組みが

 BIM利用への意欲を喚起し、BIM活用能力の向上を目指して主催しているのが「マロニエBIMコンペ」である。同コンペは13年から栃木県建築士事務所協会が開催していた学生向けコンペを継承するかたちで、21年より全国の建築士事務
所協会の持ち回りとして、参加資格を一般の設計者に拡大して実施している。全国開催となった初年度は福岡県の建築士事務所協会が主管し、熊本地震の被災地である熊本県益城町を対象敷地として、復興へのアイデアを募った。

「BIMの普及は大都市圏が先行している傾向にありますが、福岡県や栃木県などの中核都市でもユニークな取り組みを行っている事務所が増えています。地域によって抱える課題や建築を取り巻く環境は異なっており、地域特性に合わせたBIMの使い方を学ぶ必要があるでしょう。コンペ開催などでBIM設計を通じた革新的な事例を示すことが、全国的な普及
促進の一助になると考えています」と繁戸氏。

「BIM GATE」では、BIM初心者からBIMを業務に活用している建築士まで、幅広く役立つコンテンツを提供。今後はデータベースとしての機能も拡充する計画だ

 また、BIMに関する情報発信の場として開設したのが、ポータルサイト「BIM GATE」である。BIMに関する情報は官民それぞれが発信しているために散在しており、特に初心者はどこを参考にすればいいか理解が難しい。国の方針や特定のソフトのテンプレートなど、官民を問わない情報を統一して掲載する受け皿が必要であり、その役割は日事連だからこそ可能だと考えた。これからBIMを始める人が開く扉になってほしいという思いが、サイト名につながっている。

 同サイトでは、BIMの活用方法や基礎知識、各委員が執筆するコラムやコンペ情報のほか、これまでの講習動画、実務者自らが語る導入事例など、様々なコンテンツを掲載。毎年ページ閲覧数が増えており、多くの関心を集めているようだ。また、すでにBIMを導入している協会会員の建築士事務所を紹介するコンテンツ「BIMパートナー」もアップし、都道府県や対応ソフト、対応業務などからの絞り込み検索を可能としている。

「BIMを扱っている事務所への就職を志望する学生が増えているなか、都市部の大きな事務所に地元の建築系人材が流出する現状があります。地元で働きたいという学生がコンテンツを活用し、就職やインターンシップにつなげてもらえれば」と繁戸氏は語る。

 国土交通省が新たに発表したロードマップによると、27年度にはBIMによる確認申請が全国展開される見とおしであり、今後はより多くのガイドラインや仕様書の発表が予想される。そんな背景もあって、データベースとしての同サイトの役割はより重要となり、BIM活用の実践的なナレッジ提供の場としての活用が期待されている。

BIM導入が士業発展の契機に

 様々な施策によりBIMの普及を図っている同WGだが、日事連としての本来の目的は単なるBIMの普及ではないと繁戸氏は強調する。「建築士事務所の存在意義が危うくなっている現状において、事務所の持続的な経営を成り立たせることが我々の活動の根幹です。BIMの普及も大事ですが、国を挙げたDX推進が叫ばれるなか、建築士事務所もこの流れに乗
り遅れてはいけません」

上/会誌『日事連』では、「BIMで変わる、BIMで変える̶BIMをとことん使いこなそう!」を連載。実際の業務でBIMを活用している会員事務所を紹介している
下/日事連は2022年に創立60周年を迎え、これからの10年にフォーカスを当てた記念誌『60周年に“あるべき姿”を求めて』を発刊。ホームページからも閲覧できる

 一方で、建築士事務所が直面している課題を国へフィードバックすることも日事連の役割だ。特に、確認申請は建築士の重要な業務であるため、「現場の声を正しく反映したうえで、建築士事務所の業務が円滑に回るようにしなければならない」と繁戸氏は考えている。日事連は、BIM推進会議の関連会議や国土交通省官庁営繕部への会議などに参加し、よりよい施策が実施されるよう取り組みを行っている。「DX化は建築士事務所にとって難題ですが、好機だとも捉えています。

建築士が未来に向けて何をすべきか見直す岐路に立っている今、BIM導入が変革への一助となるはずです。また、デジタルネイティブな若い世代を建築士事務所に誘うためにも、DX化は必須でしょう。彼らがやる気になる環境整備を目指し、今後も活動していきます」と繁戸氏は展望を語ってくれた。

PROFILE

繁戸和幸

繁戸和幸
Kazuyuki Shigeto

株式会社安井建築設計事務所
執行役員 ICT・データマネジメント部長
デジタル×デザイン ワークス部長

1988年、株式会社安井建築設計事務所入社。約10年間、
意匠設計を担当した後、情報システム部門で社内及び顧客
向け情報システムの構築・開発、FM・BIM関連のコンサルテ
ィング業務などに従事。2019年からはBIMを含むICT全般を
担当する執行役員として、全社のDXやBIMの推進、ICTや
BIMを活用した新ビジネス領域の企画・開発・開拓に携わって
いる。一級建築士。認定ファシリティマネジャー。

一般社団法人 日本建築士事務所協会連合会

設立/1962年9月
代表者/会長 上野浩也
所在地/東京都中央区八丁堀2-21-6 八丁堀NFビル6階
https://www.njr.or.jp

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