都市に新たな生命を――。大手町の未来を変える、本格的な“森”が息づく、新たな都市再生プロジェクト
大成建設株式会社
我が国屈指のオフィス街、東京・大手町に、突如「本物の森」が出現――。独自の〝技〞で建築業界をリードする組織を紹介する本企画に今回ご登場願うのは、スーパーゼネコンの一角、大成建設である。今年4月に竣工した「大手町タワー」の設計に携わった設計本部建築設計第二部の田口晃設計室長、設計本部専門技術部の山下剛史環境デザイン室長、それに施工の責任者を務めた佐々実大手町タワー作業所長に、計画から10年近くに及ぶビッグプロジェクトを振り返ってもらった。
クライアントに〝思い〞を語る。それも技術
大手町タワーの存在を強くアピールするシンボル的存在が、田口氏の話にも出てきた「大手町の森」である。基本設計から担当した山下氏は言う。
「大手町が競争力を持ったビジネス街としてさらに発展していくためには、先端的なオフィス機能を持つとともに、やはり快適に過ごせる場所であることが重要ではないのか。そうした議論を重ねるなかで、〝本物の森〞をつくろう、という構想がまとまっていきました。広さは約3600㎡で、芝生や木立を配した緑地ならば、これくらいのものは、そう珍しくはないかもしれません。でも、ここは〝緑の質〞が違う。一大オフィス街の真ん中というロケーションで、しかも自然をそのまま再現したとなると、ほかには例がないでしょう」
その言葉どおり、高層ビルに寄り添うように造られた森には、200本を超える高木が植えられ、地面は様々な地被植物が覆う。ちなみに緑地の中には遊歩道の類は一切設けられておらず、人は緑地には立ち入れない。落ち葉はそのまま肥料となっていく。森は癒し空間であると同時に、ヒートアイランド現象の緩和や、局地的豪雨に際しての都市型水害の抑制といった効果も期待されているのだ。
ユニークなのは、「プレフォレスト」と呼ぶ、これも本邦初の試みだ。「実は〝本物の森〞といっても、最初の頃はなかなかイメージが共有できなかったのです。相手は生きた植物だし、ある意味〝一品もの〞。ならばまずは論より証拠、実際にやってみようということで、千葉県の山林に実際の3分の1程度の〝モックアップ〞をつくりました。コンクリートの上に土を盛り、設計図どおりに起伏をつけた人工地盤を施工し、木を植えてみた。そうやって3年間、イメージの共有や必要な修正、さらには維持管理の実証などに取り組みました」
そこで使った植物や土壌は、そっくりそのまま現在の森に移設している。
田口氏は「前例のないことにチャレンジするのはいいけれど、『こんなはずじゃなかった』では許されません。最初はドキドキでしたが、プレフォレストによって、成功させられる確信が持てるようになりました」と話す。
ただ、そうはいっても都心の一等地。しかるべきスペースを〝利益を生まない空間〞に供することに対しては、様々な意見があったはずである。
その疑問に対する田口氏の答えは、「計画の最初の段階から、社内はもちろんクライアントと十分に議論を重ね、必要な説得も行って、〝ブレない〞思いをみんなで共有することができたのです」というものだった。
「最初に申し上げたように、我々が重視したのは、一般の人たちが快適に感じる空間づくりです。クライアントには、『その環境を、行き交う人が喜んでくれたなら、ビル事業自体も必ずうまくいくはずです』と訴えました。議論にはかなり時間もかけましたし、時には『そんなことができるのか』と侃侃諤諤の雰囲気にもなりましたけど、それを重ねるなかでお互いの信頼感も強まった。結局、『一緒に、ここにしかないもの、できないものをつくろう』という気持ちに引っ張られて、ゴールまで走り抜いたという感じがしています」
山下氏が補足する。
「私は、クライアントの『この森は、日本で初めての試みでしょ? だったら頑張ろうよ』というひと言が嬉しかった。プレフォレストにしても、地下の吹き抜けの空間にしても、 〝日本初〞に挑戦するプロジェクトだったことが、より一層、みんなの結束を強める方向に作用したのではないでしょうか」
田口氏は、「このプロジェクト成功の要因は、事業者さんと意思を一つにすることができたこと。それに尽きます」と重ねて強調する。
「かたちにするには、もちろん設計や施工の技術が要る。同時に、かたちに込められた〝思い〞を相手に伝えきることが大事だということを、今回のプロジェクトで改めて痛感しました。私はそれも一つの技術だと思うのです」
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- 建物による新たな価値の創造を目指して
- 田口 晃
1990年、明治大学大学院修士課程修了後、大成建設入社。
同社設計本部建築設計第二部 設計室長。
一級建築士。
- 山下 剛史
1991年、大阪大学工学部建築工学科卒業後、大成建設入社。
同社設計本部専門技術部 環境デザイン室長。
一級建築士。登録ランドスケープアーキテクト。
- 佐々 実
1991年、早稲田大学理工学部建築学科卒業後、大成建築入社。
同社東京支店 大手町タワー作業所長。
一級建築士、一級建築施工管理技士。
- 大成建設株式会社
創業/1873年10月
設立/1917年12月
代表者/山内隆司
資本金/1124億4829万円
所在地/東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービル