日本の美意識で、美しい文化を紡ぐ。 新たな空間デザインブランド、始動
八芳園 AWAHI
日本の〝間〞の文化を空間デザインへ――
江戸時代から続く日本庭園を有し、ブライダル事業やレストラン運営を手がけてきた八芳園は、その歴史と伝統を礎に、総合プロデュース企業として次世代を見据えた新たな価値創造に挑んでいる。その一環として、2022年、空間デザイン事業部「AWAHI(あわひ)」を設立、始動させた。
名称の「AWAHI」は、余白を活かす美意識や、日本独自の人との間合いを大切にする〝間〞の文化を空間づくりやサービスに取り入れ、新たな循環型社会モデルの提案につなげたいという思いから命名。現在、同部のブランドマネージャーを務める片平麻衣子氏のもと、2名のメンバーが在籍。社内外の案件に対して、企画からデザイン、建築・内装設計、オペレーション計画までを一気通貫に手がけている。
例えば、25年に開業予定の八芳園のコスチュームサロン「The Bridal Boutique KOTOHOGI by HAPPO‐EN」では、最終的に顧客が受け取る空間価値を見据え、あらかじめ提供するソフトコンテンツを決定したうえで設計をスタート。
「新しさのなかにも八芳園らしさを保つため、八芳園の庭園の土や木を混ぜ込んだ建材を職人と開発し、伝統的な西陣織などを取り入れながらデザイン。また、空間を構成する音や香りも、庭園の自然とイメージに合わせた内容を重ねたオリジナルのものを制作し、八芳園らしさを感じていただけるよう工夫しています」と片平氏は語る。
同部門が生み出すソフトコンテンツは、サービスプログラムとしても提供。22年のジャパンホーム&ビルディングショーに出展し、すでに提供を開始している「OCHANOBA」は、お茶カウンター「CHA-BAr(茶場)」を通じてオフィスに人が集まる場を形成するだけでなく、現代において文化の継承が希薄化している煎茶の淹れ方を座学と体験形式で学べる新た
なコンテンツとなっている。
職人技の継承を新ツーリズムで
同部門では、事業企画や構想に携わる際に、デザイン思考をもとにしたワークショップを取り入れている。成田空港から基本方針策定のアドバイスを依頼されたプロジェクトでは、空港を単なる交通の通過地点にとどめず、〝訪れたくなる場〞としての在り方を模索した。そこで、成田空港の特徴である周辺に残る森に着目し、森とのつながりをテーマにしたワークショップを開催。さらに、地域の防災拠点としての役割を果たしつつ、平常時にはグランピングなどのアクティビティで開放し、緊急時に迅速かつ円滑な運営が可能となるような場づくりを提案している。
すべてのプロジェクトに共通するのは、八芳園が重視している職人の技である。同事業部では、様々な職人の技にフォーカスしたストーリーをホームページ上で発信し、日本文化の素晴らしさを広く伝える計画だ。また、職人とのコラボレーションによる各種プロダクトの開発を進め、独自ECサイトでの販売も予定している。
片平氏が同事業部の活動の先に見据えるのは、伝統の継承を支えるツーリズムの推進である。多くの職人が後継者不足に悩む一方で、職人を志すものの足がかりを得られずに断念する人も少なくない。片平氏は、その両者の間を結びつける役割を目指している。
「全国に点在する空き家を活用して、地域の特色を生かしたイベントを開催し、食の要素を加えてオーベルジュのような宿泊施設を形成できればと考えています。そこで職人とともに寝泊まりしながら技術を学ぶインターンシップを『泊プロジェクト』として実現させることも目標の一つ。一方で、八芳園もエリアプロデュースに力を入れ始めていることから、地域と一緒に新たな価値を創造する取り組みを通じて、将来的には具体的なプロジェクトとして展開していきたいですね」
- 片平麻衣子
空間デザイン事業部
ブランドマネージャー/空間デザイナーかたひら・まいこ/2007年、大阪芸術大学芸術学部デザイン学科卒業。
店舗、住空間、オフィス、公共空間など幅広い分野において、
建築・内装・プロダクト・バイオフィリックデザインなどを手がけて
きた。22年10月、八芳園に入社し、「日本の美意識で、文化を紡
ぐ」をコンセプトにしたブランド「AWAHI」 を設立。デザイン思
考を用いたワークショップを行いながら、企画立案からデザイン設
計、コンテンツまで一気通貫のプロデュースを行っている。
- 株式会社八芳園
所在地/東京都港区白金台1-1-1
https://happo-en.com/
1943年創業。結婚式場として高い評価を受けるととも
に、レストラン、イベントスペース事業などを展開。創業
81年目を迎え、これまでの実績を生かした総合プロデュ
ース企業として、事業領域を拡大している。