〝組織〞と〝個〞で設計・研究を続け、〝双方〞にとっての最適解を模索する
三菱地所設計チーフアーキテクト 藤 貴彰
街単位の設計を求め組織設計事務所へ
藤貴彰氏が建築に興味を抱いたきっかけは、高校の美術室で目にしたザハ・ハディドのドローイングだった。早稲田大学では古谷誠章研究室に所属し、同研究室で修士課程に進学。現在も継続している全国修士設計展「トウキョウ建築コレクション」は、修士生が建築理論を競い合うとともに、東京の都市をよりよくすることを理念として、藤氏を含む同級生たちで立ち上げた。
当時の仲間とは今も交流が続き、最近は超高層建築の是非にフォーカス、組織・ゼネコン・アトリエの建築家たちと熱い議論を交わしているという。
大学時代から意識していたのは、設計のスケール感。建築単体が及ぼす影響は限定的だが、街区全体を設計できれば単体では実現しにくいことも可能になる。街単位のプロジェクトを手がけたいという思いから、大学院修了後、三菱地所設計に入社した。
「新宿イーストサイドスクエア」や「早稲田大学高等学院」などの設計に携わった後、発足したての海外プロジェクト室へ異動。当初は海外案件が少なくコンペ業務に勤しんでいたが、ここから台湾の商業施設「南紡夢時代」と超高層ビル「臺北南山廣場」の設計につながった。両プロジェクトに共通していたのは、〝このデザイン〞を実現しようとする関係者の強い意志だと藤氏は振り返る。
「設計者の意図を尊重し、デザインを守りながらコスト調整に挑む姿勢に、国内との違いを感じました。この時に身につけた考え方、交渉の仕方が、意外と日本でも通用するので、今の考え方のベースになっています。これは海外業務で得た大きな収穫でした」
台北のランドマークである台北101に隣接する臺北南山廣場の敷地では、卓越風が台北101に当たって生じる強いビル風が問題となっていた。そこで、設計に際して地域の風環境を改善するため、環境シミュレーションを実施。建物に当たった風が、吹き降りるのではなく、上昇するよう八角形の平面を導いた。この形状は、自邸「出窓の塔居」のアイデアにもつながっている。都心の狭小敷地において、周囲の建物にとってもプラスとなる建ち方を模索した。
「敷地の四隅を45度に切り落としていくと、そこに小さな三角形のポケットパークができます。その斜め部分に窓を付けることで、隣戸にも出窓の塔居が建つ前と変わらず光と風が届く。そのための八角形です」
仕事の境界をなくし設計の価値向上を模索
出窓の塔居は、「第4回日本建築設計学会賞大賞」など数々の賞を受賞。国内外の各種メディアでも紹介された。また、三菱地所設計での社内研究活動の成果を用いて、23年のヴェネチアビエンナーレ国際建築展での「ベネチ庵」の発表につなげた。サーキュラー・建築を目指し、食品廃棄物から新素材を開発する企業と協力し、イタリアの食品廃棄物を主材料とした〝茶室〞を設計。その後、ドバイデザインウィークでの「アラビ庵」に展開した。
「このような小規模な建築は、設計からアウトプットまでの期間が短く、実験と改善の反復が容易です。一方で、組織設計事務所が扱う超高層などの大規模案件は、竣工までに長期間を要し、設計を調整しながら進める必要があります。そのため、小規模建築による試行錯誤が大規模建築にフィードバックされる循環が重要だと考えています」
現在、藤氏は早稲田大学の博士課程に在籍し、研究を重ねる傍ら、大学で講師を行うなど教育にも携わっている。自らの研究室で得た研究成果を会社にフィードバックできれば、組織設計事務所への貢献にもつながると語る。
藤氏はかつて修士課程で、工業地帯として栄えたドイツ・ライネフェルデの街の建物群を減築する研究設計に取り組んだ。そして、今まさに三菱地所設計において減築のプロジェクトに取り組もうとしている。
「減築を実現させるプロセスでは、大学時代の研究、三菱地所設計で学んだ知見に加え、過去に個人で取り組んだ作品のノウハウも役立っています。組織設計事務所の社員と個人の建築家、そして大学の研究者、この間にある壁を取り払うことで、手が届く範囲が広がり、大きな価値を生み出していけるはず。今、そのための自分自身のあり方を、模索しているところです」
- 株式会社三菱地所設計
ふじ・たかあき 1982年、兵庫県生まれ。2005年、早稲田大学理工学部建築学科卒業。
07年、同大学院理工学研究科建築学専攻修了後、三菱地所設計入社。
12年、同社台湾駐在。
19年、tyfa / Takaaki Fuji+ Yuko Fuji Architecture設立。
24年より、早稲田大学大学院博士課程在籍。「巡る間」にて、
グッドデザイン賞ベスト100、臺北設計奬でサーキュラーデザイン賞、
「出窓の塔居」にて、日本建築設計学会賞大賞、
日本建築学会作品選集新人賞、J I Dアワード、
Architecture Master Prize Winner他、
「臺北南山廣場」にて、CTBUH Award of Excellence他、
2022年・2024年の日本建築学会大会デザイン発表にて
優秀発表他、国内外の建築賞を受賞。
明治大学兼任講師。東京電機大学非常勤講師。