この場所に〝価値〞を重ねることが使命。 そんな建築家のマインドを貫き続ける
PERSIMMON HILLS architects/廣岡周平
設計における言語化を常に意識している
「建築学科への入学は〝たまたま〞でした」と振り返る廣岡周平氏。だが、大学入学後に雑誌で目にした伊東豊雄氏の作品に衝撃を受け、次第に建築の世界へ没頭していくようになる。そして、数多くの学生コンペに挑戦し、建築に対する視野を広げると同時に自身の可能性を模索していったという。しかし、コンペでの評価が高まるとともに、学内外の評価が必ずしも一致しないギャップに悩み、さらなる挑戦の場を求めて大学院はY‒GSAに進学。そこで、建築設計における言語化の重要性を講師陣から学ぶことになる。
「言語と設計が一致していなければ、優れたアイデアでも人には伝わらない。この気づきから、言葉の大切さを実感しました」と廣岡氏は語る。
Y‒GSA在籍中には、伊東豊雄建築設計事務所で半年間のインターンシップを経験。台中オペラハウスの模型製作に携わるなかで、三次元曲面を特徴とする設計に四角い建具が配置される矛盾点を鋭く指摘。それを批評文としてY‒GSAに提出するなど、独自の視点を磨いていった。
修了後の1年間は一級建築士の資格取得に集中する傍ら、独学で「スケッチアップ」によるモデリング技術を習得。その後、Y‒GSAで設計助手を務めていた末光弘和氏のSUEPに入社し、スタディを重ねる過程でアイデアを具現化するため、モデリングを設計プロセスに使う設計基盤を築いた。
さらに、より大規模な公共施設設計の仕事を求め、大成建設設計部に転職。プロジェクト初期の営業段階での議論や、プロジェクトの引き渡しプロセスを経験し、設計者としての視野を多く広げたという。一方、大学時代の同級生であり、現在の事務所のパートナーである柿木佑介氏とは、独立前のスタッフ時代に共同で住宅の改修設計を手がけ、設計においての相性のよさを実感。「いずれ一緒に独立しよう」と冗談交じりに語り合っていた。この住宅設計を機に二人への依頼が徐々に増えていき、2016年、柿木氏と共同でパーシモンヒルズ・アーキテクツを設立、独立を果たした。
身体的な体験から複数の価値を引き出す
独立後の第1作となった「宝性院観音堂」は、日光街道沿いに約400年続く寺院の観音堂兼多目的スペースとして設計され、地域に開かれた空間を目指した建築である。参道からの軸線上の正面に仏像を据えつつ、側面を中庭に開き、さらに反対側にはトップライトを設けてもう一つの軸線を創出。多様性に富む空間が生み出された。
「価値を重ねるためには、身体的な感覚に訴えるデザインが不可欠です。光に触れる瞬間の驚きや、『ここで過ごしたい』と自然に感じさせる場所。そうした身体的な感情を引き起こす体験こそが、建築におけるデザインの本質だと考えています」と廣岡氏。
また、建築の〝公共性〞は、廣岡氏が意識するもう一つの課題だ。個人の住宅にも、何らかの公共性を携えるものを手がけていきたいと語る。
現在、廣岡氏は川崎(神奈川)に、柿木氏は高円寺(東京)に事務所を構え、それぞれに3名のスタッフが在籍。独立前に手がけた先の住宅改修プロジェクトは、両氏が別々の会社で働きながら共同設計を進めていたこともあり、今もリモート環境で設計を進める不便さは感じないという。
一方で、依頼数の増加と案件規模の拡大に伴い、現在はマンパワーのかけ方と人材育成に試行錯誤を繰り返し、3つの設計方針を使い分けている。1つ目は、どちらかの事務所が中心となり、もう一方がサポートにまわる方法。2つ目は、初期段階に密にデザインを共有し、その後の作業を分担して進める方法。3つ目は、お互いが全工程を協力して進める方法だ。
独立以来、クライアントからのリピートや紹介による依頼が絶えないが、その背景には、クライアントとの対話を重視する姿勢が垣間見られる。
「建築と言葉を意識的につなげることで、思い描くビジョンが鮮明になり、クライアントとの目指すべき方向性が定まります。ただ、言葉では伝えきれない部分もあるので、模型やモデリングで視覚的な補いを加えながら、完成後の実感を共有。そうしたていねいな対話こそが、僕たちの建築を生み出す原動力となっています」
- 廣岡周平
ひろおか・しゅうへい 1985年、大阪府生まれ。
2008年、関西大学工学部建築学科(江川研究室)卒業。
10年、横浜国立大学大学院Y-GSA修了。11年、SUEP入所。
15年、大成建設入社(設計部)。
16年、柿木佑介氏とPERSIMMON HILLSarchitectsを設立し、
「価値を重ねる」ことをテーマに設計を行う。
設計の一方で自邸2軒、実家1軒を自ら施工し、
つくることを通して、建築・都市・生活について考えている。
東京、大阪にも事務所拠点を置く。一級建築士。
- 株式会社 パーシモンヒルズ・アーキテクツ
所在地/川崎市川崎区境町6-7-3
https://www.persimmon-hills-architects.com/