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豊かな建築や街を生み出す 多様な“かたち”の機能を、 理論化できる“力”を探求する

豊かな建築や街を生み出す 多様な“かたち”の機能を、 理論化できる“力”を探求する

東海大学 建築都市学部 建築学科 河内研究室

大学院修了生の就職先は、組織設計事務所が大多数を占めるがアトリエ系も。学部卒業生は、ハウスメーカーを中心に小規模事務所などにも就職している

〝かたち〞の研究から豊かな建築を導く

建築において、〝かたち〞は単なる美的要素にとどまらず、建物の用途や利用者の行動に深く関与するものだ。河内研究室では、建築における〝かたち〞の機能を分析し、設計プロセスに応用する手法を研究している。「基礎研究を通じて設計の精度を高めることが重要です。単なる感覚的なデザインではなく、〝かたち〞がもたらす具体的な影響を理解しながら設計し、説明できることを目指しています」

研究室では、学生とともに〝かたち〞に関するスタディやエスキスを重ね、〝かたち〞の働きのメカニズムを解明する。例えば、ある学生は床にわずかな傾斜を設けた場合、人の行動がどのように変わるのかを調査し、角度ごとの空間利用の変化を体系的に整理する。さらに、こういった基礎研究を応用し、従来はフラットな床で構成されるビルに勾配を取り入れるなど、実際の建築設計へと展開している。

河内一泰氏の〝かたち〞に対する意識は、大学院修了後に難波和彦氏のアトリエに入所し、「箱の家」のプロジェクトにかかわった経験に起因する。「箱の家」は厳密な寸法設計に基づきながらも、外形には過度な主張を持たない。この経験を経て、独立後、プロジェクトごとに最適な〝かたち〞を追求する姿勢を確立した。初期のプロジェクトでは、別荘の眺望を最大限に確保するため、四角い形態を斜めにスライドさせるなど、外側の〝かたち〞に主眼を置く設計を試みた。その後、内部空間へと関心を広げ、現在の空間の知覚に関する研究につなげていった。

今年度の修士生(小師大輝氏)による卒業設計「閉ざされた空間を辿る~三次元ヴォイドによるグリッド空間の連続と分割~」の模型とプレゼンテーション資料。吉祥寺の駅前ロータリーに建つ建物のなかを、曲線で囲まれた空洞で立体的に切り取ることで、豊かな空間を生み出すことを目指した。様々な形状や構成のグリッドから、スタディをもとに三次元ヴォイドに適したかたちやルールを検証し、設計手法として確立させている

研究室では、学生各自がテーマを選んで〝かたち〞の基礎研究を行っている。たくさんの空間を程よく区切りながらつなげる建築のために「開口率」によって分析をしたり、深い空間に魅力を感じて「奥行き」をつくるための〝かたち〞を研究したりしている。

ある修士生の研究では、既存の建物の直交グリッドの内部に三次元的な空洞を挿入し、新たな空間の接続方法を提案。また、「狭広い空間」がテーマの修士設計では、小規模なパーソナルスペースから広がりのある空間へと段階的にスケールを変化させることで、空間体験の新たな可能性を提示している。

〝かたち〞の数値化で客観的な評価を実現

これら基本原理を解明するうえで重要視しているのが、〝かたち〞の数値化である。例えば食の評価でも、言語的な表現だけでなく糖度などの客観的指標が用いられるように、建築の〝かたち〞も数値化することでより精緻な設計が可能になると河内氏は指摘する。

空間の検証を行う際、学生には模型製作を勧めている。空間への光の入り方などは模型を覗くと、実際の体験のように感じられる

このアプローチの一例として、ある学生は空間の快適性を示す「Awe体験の効果」の数値化に取り組んだ。都市の風景を見上げた際に心地よさを感じる景観には特定の凸凹パターンが存在すると仮定し、収集した写真を解析。凸凹の割合を算出し、その数値を設計プロセスへフィードバックする手法を提案した。

「このような数値化の試みは、設計を評価する客観的指標を与えるだけでなく、研究と設計を往還するプロセスを確立することにもつながります。〝かたち〞を研究し、それを設計に落とし込み、数値によって評価するサイクルは、学生が将来どのような職に就こうとも有益な経験となるはずです」

河内氏の研究は、10年前に自身が手がけた「アパートメント・ハウス」にも通底している。このプロジェクトでは、8戸の木造集合住宅に多面体の開口を施し、一戸建てとして再構成した。都市における空き家やスクラップアンドビルドの問題に対し、建築の〝かたち〞からの新たなアプローチとなっている。今後は、こうした研究を公共住宅など中規模建築へと発展させることも視野に入れているという。

「建築の〝かたち〞が生み出す可能性を、より広いスケールで探求していきたい」と、河内氏は未来を見据えている。

PROFILE

准教授
河内一泰

こうち・かずやす

1998年、東京藝術大学美術学部建築学科卒業。
2000年、同大学大学院美術研究科建築専攻修了後、
難波和彦+界工作舎入所。
03年、河内建築設計事務所設立。
SDレビュー新人賞、JIA新人賞(アパートメント・ハウス)、
AR HOUSE AWARDS最優秀賞(床と天井)など受賞多数。
19年、東海大学准教授。
一級建築士。

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