図書館、展示施設など公共建築を主とし、プロポーザルでの勝率5割強を目指す
佐藤総合計画 第二設計室
デザインレビューが勝率アップの秘訣
今年で創業70年を迎えた佐藤総合計画は、公共施設を中心に手がける設計事務所である。第二設計室は自治体の庁舎、図書館、大学、展示施設、文化施設などの比率が高い。現在は東京オリンピックに向けた東京ビッグサイトの増築も設計中である。また近年では図書館の受注が増加傾向にあるという。例を挙げると、日本で初めて県と市の図書館を合築する高知新図書館や、京都女子大学附属図書館などの案件も担当している。
同社の案件の多くはプロポーザルを経て受注するもの。受注増加はすなわちプロポーザルでの勝率アップを意味する。第二設計室長の鳴海雅人氏によれば、その勝因は「新鮮で、斬新な提案を行っている」ことにある。「社会情勢の変化に伴い、建築に求められるものも変わる。それをキャッチした建築づくりを評価いただいているのだと思います。一般に、プロポーザルでは3割勝てればすごいといわれていますが、図書館に限ればここ数年の勝率は5割以上です」
当然ながらその背景にはたゆまぬ努力がある。その土地固有の環境・条件を調べ尽くし、世界に2つとない個性を設計に落とし込んでいく。さらにこれをブラッシュアップする役割を担ってきたのが「デザインレビュー」である。社長含め経営トップによる厳しいチェックとアドバイスを受けるのだ。
「当社の存続はプロポーザルの勝敗にかかっています。また設計はすべて『佐藤総合計画』の責任で提出される。それだけに経営トップによるアドバイスはプロポーザルの審査員よりも厳しい。なぜこの設計なのか論理的に説明できなければいけないし、時には案をひっくり返されることもあります。しかし、デザインレビューがうまく機能しているからこそ、現在の勝率が維持できている。プロポーザルで戦う相手は我々より規模が大きな場合がほとんど。彼らを相手に戦い勝ち続けるには、相応の努力とトレーニングが必要だということですね」
- 〝個〞の強化をリーダーも後押し
- 〝個〞の強化をリーダーも後押し
〝個〞の強化をリーダーも後押し
現在、同室のメンバーは25名。生え抜きが多いが、中途採用も3分の1ほど含まれる。
「なかには個人住宅しか経験のなかった者も。いろんな個性が集まっています」と鳴海氏は言う。担当ジャンルは特に固定されておらず、ほかの設計室との連携も緊密だ。
「メンバーには、もっと個性を出せと言っています。当然、上長がリーダーシップを取りますが、実作業を任せる部分が多いですから。我々の仕事は、プロポーザルで自分たちの提案が認められることが最大の喜び。各種の賞をいただいた時は、担当した個人もしっかり評価します。個人が努力し、結果を出した分だけ報われる。それも大きなモチベーションです」
前述した「デザインレビュー」は、メンバーたちの成長を加速する機能も併せ持つ。鳴海氏ほかリーダークラスから、新卒1年目のスタッフまでが全員参加。プロポーザル本番さながらの真剣勝負を都度重ねているのだ。「セミナーや研修会も実施していますが、それは成長のきっかけづくりに過ぎない。本当の成長は厳しい実戦のなかにあると私は思います。デザインレビューで評価されて喜び、あるいはひどく批判されて悔しがる。それがすべて成長の糧になります。だから、プロポーザルに負けることも貴重な財産。これだけ自信を持っていた提案がなぜ他社に負けたのか。その自問自答が人を育てるのです」
今後の目標は「ルーティン業務に忙殺されることなく、プロポーザルや実設計にしっかり注力できる強い組織をつくる」。それには個人の成長が不可欠だ。
「会社の看板の後ろに隠れる必要はない。『強い個人がたまたま佐藤総合計画所属だった』でいいというのが私の持論です。個性を開拓し、自分の名前を売っていってほしいですね。出すぎた杭は打たれないと言いますが『もっと出すぎろ』と(笑)。私たちリーダーは、彼らを社会に売り出していく立場だと思っています」
- 鳴海 雅人
1980年、芝浦工業大学建築学科卒業後、佐藤武夫設計事務所(現佐藤総合計画)入社。
多くのコンペ、プロポーザル、設計監理にかかわる。
BCS賞、日本建築学会作品選奨、公共建築賞、グッドデザイン賞、図書館建築賞など受賞多数。
著書に『人生は満たされない建築で溢れている』(青弓社)など。
一級建築士。
- 株式会社佐藤総合計画
所在地/東京都墨田区横網2-10-12 AXSビル
TEL/03-5611-7201
http://www.axscom.co.jp/
1945年、早稲田大学教授の佐藤武夫により設立、88年に現社名に社名を変更した。
「建築は万人のものである」という佐藤武夫の言葉を受け継ぎ、
庁舎やホール、図書館、学校などの公共建築を中心に、数々の建築を手がけてきた。
近年では中国や台湾などでの国際コンペを経て設計を勝ち取った大規模案件が増加している。