誰もが心地よく感じる場所づくりを――。
時代と人々のニーズを敏感に取り入れ、
常に建築のニュースタンダードを提案
KLEIN DYTHAM ARCHITECTURE
アストリッド・クライン氏とマーク・ダイサム氏は、イギリス・ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アートで出会い、意気投合。来日後、約2年間、伊東豊雄建築設計事務所で経験を積み、1991年、東京に同事務所を設立した。
活躍の舞台に日本を選んだ理由について、「まだ帰りたくなかったから(笑)」と二人は口を揃える。「当時、日本はバブル期で、渋谷のシネマライズや青山製図専門学校、浅草のアサヒビール本社ビルなど、大胆で面白い建物が次々と建てられました。デザインのルールに厳しいヨーロッパとは違い、日本は自由かつ、施工技術力も高く、何でもできると感じた」とクライン氏。
同事務所は、建築、デザイン、インスタレーションといった複数の分野のデザインを手がけるマルチリンガルオフィス。とはいえ、それらに境界線はない。「全体をパッケージングして一つのメッセージを伝える」ことを大切にしている。
「わかりやすく、かつ楽しいものにしています。人の記憶に残りやすいように」(ダイサム氏)
「大勢の人が居心地のよい空間をつくることが得意。自分自身がそこに行きたいか、過ごしたいかが大事です」(クライン氏)
そんな同事務所が手がけるプロジェクトは、たびたびニュースタンダードを生み出す。例えば、仕切りのないオープンなオフィスデザイン「ビーコンコミュニケーションズオフィス」は新しい働き方を、表参道ヒルズ建設中の仮囲いを緑化した「グリーングリーンスクリーン」は新しい工事現場を定番化させた。「代官山T ‒Site/代官山蔦屋書店」もその一つだ。タブレットが普及し始め、書籍販売が下がってきた2012年、新しい書店のスタイルとして注目を浴びた。
「商業施設はお客さまの意見より、オペレーションありきでつくられることが多い。この書店は、お客さま目線にプライオリティが置かれたからこそ生まれたのです」(クライン氏)
今後は、どんなニュースタンダードが生まれるのだろうか。二人に、次なる目標を伺った。
「日本のまちおこしに貢献したいです。また、現状、生かされていない素材がたくさんあります。例えば日本は、デザイン、ファッション、自動車など世界に誇る技術を有しているのに、それらの魅力を伝えるミュージアムがない。非常にもったいないと思います」(ダイサム氏)
「自分が70 歳になった時、入りたいと思う高齢者施設がありません。そこに行けば元気になれる、そんな場をつくりたいと考えています」(クライン氏)
実現には、チームの協力が欠かせない。現在、同事務所は15人の陣容で、互いの得意を生かし合いながら、案件ごとに最適なチームを組む。必要な人材を、ダイサム氏は、料理を手がける〝シェフ〞に例える。
「私たちは、そのシーズンのおすすめを提供するシェフ。どんな料理(=案件)でも素材を足し、味つけを変え、『もっとおいしく(=楽しく)しよう』と工夫する姿勢が必要なのです」
そんな〝シェフ〞になるために、どうすればいいのか。クライン氏がヒントをくれた。
「インプットが大切です。例えば、私たちが03年から手がけ、今や世界900以上の都市に広がっているプレゼンテーションイベント『PechaKucha Night』は、最適な場。学生から、ちょっとやりたいことのある人まで、幅広いクリエイターの話が聴けます。1時間は聴けない話も、20枚×20秒のスライドを使用した6分40秒のプレゼンテーションなら、気軽にインプットできるはず。イベント運営側としても、来場者の求めるステージ照明や受付、おもてなしなどを体感することで、多様なビジネスプランにアウトプットできています。こうした意識を持ち、自立的にプロジェクトに取り組める人がいれば、ぜひ一緒に働きたいですね」
- アストリッド・クライン(中央)
マーク・ダイサム(右) ロイヤル・カレッジ・オブ・アート大学院修了後に来日し、
1998年、共に伊東豊雄建築設計事務所に入所。
91年に、クライン ダイサム アーキテクツを設立した。
- 久山幸成(左)
創業時から二人と事務所運営を支えてきた。
- クライン ダイサム アーキテクツ
所在地/東京都渋谷区広尾1-15-7 アドビルディング2階
TEL/03-5795-2277
http://www.klein-dytham.com/
イタリア出身のアストリッド・クライン氏とイギリス出身のマーク・ダイサム氏により1991年に設立。建築、インテリア、インスタレーションといった幅広い分野のデザインを手がける。フラッグシップストア、レストラン、リゾート、オフィス、住宅、アパートなど案件も様々。2003年、二人により考案されたプレゼンテーションイベント「PechaKuchaNight」は、今や世界900以上の都市で開催されている。