今そこにあるものと関係を持ち得るすべてのものが、風景をかたちづくる。
価値ある“みんなの場所”をこれからも
オンサイト計画設計事務所
1998年、前職の同僚だった4人のランドスケープアーキテクトにより設立されたオンサイト計画設計事務所。長谷川浩己氏、戸田知佐氏、鈴木裕治氏、三谷徹氏それぞれが個々の案件を手がけながら、独自のカラーを発揮している。「なので事務所の代表作を聞かれると4者4様の答えがあって困るんです」と代表の長谷川氏は苦笑するが、志とベクトルは一致している。
「基本的なスタンスを申し上げるなら、我々が考えるランドスケープアーキテクトは〝自然を設計する人〞です。樹木があり土があり、季節の移ろいがある。建築物を含めて、今そこにある自然を大事にする空間づくりを常に心がけています」(三谷氏)
「特に我々は、敷地を与えられて『こうしてください』と依頼されるよりも、『その敷地で何をするのがベストか?』とコンセプトをつくるところからかかわりたい。そうしてエリア全体が価値を持つようなランドスケープを、と」(長谷川氏)
設立当時、公共の仕事を〝こなす〞ことが得意な同業は数多あったという。しかし、同事務所はコンセプトからランドスケープデザインを担う若手集団として注目を集め、有名建築家、ハウスメーカー、ゼネコン、行政などからの依頼が相次いだ。
「最初からあらゆる仕事を経験できたのは幸運でした」と三谷氏は述懐する。以降、「品川セントラルガーデン」「赤坂サカス」「星のや」などのランドスケープで実績を積み重ね、2008年には一連の作品についてアーバンデザイン賞を受賞した。
10年3月に竣工した「奥多摩森林セラピーロード 香りの道・登計トレイル」もコンセプト立案から参画したもの。行政から依頼された時点では「森林セラピー」というキーワードがあるのみ。何をつくるのか、敷地はどうするのか、2年間のブレストを経てようやく具体的な提案に臨んだ。
「リアルに図面を書く前の段階もランドスケープデザインの一部です。誰をどう参加させるか、最終的にどうペイさせるかも一緒に考える。すべての仕事がケースバイケースですが、そこが面白い」(長谷川氏)
まちづくり計画ともなると、住民参加の議論を主導することもしばしば。
「例えば多摩ニュータウンの建て替えプロジェクト。人それぞれ『家はこうじゃなくては』という意見があります。何百戸の集合住宅を建て替えるとなれば全員の合意は難しい。でも、ランドスケープの話を共有すると何となく話が合ってくる。『どんなまちで暮らしたいか』共通の感覚が住民のなかに生まれるからでしょう。プロセスデザインにおいてランドスケープの話は非常に重要です」(戸田氏)
「柏の葉キャンパスシティでは住民のみならず、ディベロッパー、企業や大学、警察や市も巻き込んで議論しました。これも私たちの仕事」(鈴木氏)
より広範なエリアに影響をおよぼす仕事がしたいという思いも、4人に共通するところ。ただしエリア全域をデザインするわけではない。「大きなエリアに影響を与えられる一点を考え抜きたいのです」と長谷川氏。
「建築が将棋だとするならランドスケープは囲碁。将棋はコマの役割が決まっていますが、囲碁はさっき打った石の意味が次に打った石によって変わる。それと同じで、例えば小さな公園を一つつくるにしても半径50mの子供が遊ぶためだけの公園もあれば、地域全体を変える仕かけになる公園もある。岩手県紫波町の『オガール広場』はまさしくそのケース。広場のみならず、紫波町全体をどうするかというところから議論を始めました。うまく石を打つとカカカッと局面が変わっていくのが快感なわけです」(長谷川氏)
「そう。まちなかのどこにバス停を置くか、それだけでまち全体の風景が大きく変わることがある。プロジェクト全体を成功に導く、そういう仕かけをこれからもたくさん提案していきたいですね」(三谷氏)
- 右より
長谷川浩己(武蔵野美術大学教授)
戸田知佐(多摩美術大学非常勤講師)
鈴木裕治
(明治大学兼任講師、東京電機大学非常勤講師)
三谷徹(千葉大学教授) ササキ・エンバイロメント・デザイン・オフィスに所属していた4人で
1998年に同事務所を開設し、
以降、パートナー4人体制の共同経営を続けている。
- オンサイト計画設計事務所
所在地/東京都港区芝3-24-1 駿河ビル5階
TEL/03-5444-3166
https://www.s-onsite.com/
1998年創業。以来、大学キャンパス、オフィス、リゾートホテル、集合住宅、博物館・美術館などのランドスケープデザインを行う。星野リゾートが展開するホテル「星のや」も複数担当。4人で一つのプロジェクトを手がけることはないが「一人で始める前に、皆でコンセプトを話し合うようにしている」とのこと。