インテリア、建築、プロダクトなど、デザインの境界を再定義し続ける。
誰も見たことのない未来をつくりたい
CURIOSITY
1991年に来日してから25年、東京を拠点にキャリアを重ねるグエナエル・ニコラ氏。インテリア、建築、グラフィック、プロダクトと、あらゆるジャンルを横断するデザイナーだ。店舗デザイン一つとっても、フェンディやルイ・ヴィトンといったラグジュアリーブランドからユニクロまでをカバーする。現在は2017年にオープン予定の銀座松坂屋跡地の再開発事業、通称「G6」プロジェクトの内装デザインが進行中だ。
「僕がデザインしたいのは〝新しい世界〞。例えば、ある部屋を見渡すだけでも、様々なプロダクトやファニチャーがあり、窓の外にはほかの建物や街が広がっている。全部リンクしているから、全部デザインしたくなるのです」
そもそも来日の動機は「東京」にあった。「世界中からエナジーと情報が集まっていて、アイデアさえあれば何でもできる都市。今すぐ自分のデザインを形にできる、そこがヨーロッパとは違うところ」とニコラ氏。フリーランスのデザイナーとして活動を始めると、在欧時からの憧れだったという坂井直樹氏に手紙を書いた。オリジナルの仏壇をデザインしたのを機に二人のコラボが始まり、プロダクトデザイン、グラフィックデザインの経験を積んだ。同じように三宅一生氏にもアプローチすると、のちにイッセイミヤケの店舗や香水ボトルのデザインを手がけることになっていく。
「僕はいつも、この人と仕事したい、学びたいという思いでアクションするのです。店舗デザインも、一生さんと仕事をしながらゼロから学びました。『明日までにデザインをあげて』と言われたりしながら(笑)。今できないことが、その人と仕事したらできるようになる。そういうストラテジーです」
仕事は常に自分でつくってきた。クライアントにアイデアを持ちかけては、返事を待つのだ。
「プロジェクトが始まってからデザインするのでは遅いのです」とニコラ氏は言う。
「デザイナーは自動販売機じゃないから、すぐにはつくれない。だからプロジェクトがなくても頭のなかでずっとデザインしているし、面白い素材も探しています。サーフィンみたいなものでしょう。プロジェクトは波で、いついい波がきても乗れるよう、いつもサーフィンの練習をしているというわけです」
デザインが形になるまで25年かかった例もある。「最近一番うれしかった仕事」だという、カネボウの新ブランド「KANEBO」のロゴだ。
「来日してすぐの頃、カネボウのロゴを見て、絶対変えたい!と決めました。カネボウと仕事をするようになってから、先方の担当に会うたび、しつこく言ってきた。そしたら今年やっとね。何かを変えたいと思ったらお金はどうでもいい。だってデザインは自分のためじゃない、人のため。皆に見てもらって、ワオ! と言わせたいのです」
98年に「キュリオシティ」を設立し、現在は25名ほどのスタッフを抱える。採用する際の条件は「自分よりも優れたものを持っていること」。設計、CG、素材、プログラミングと、各領域のスペシャリストがここに集結している。
「でもデザインのことはもっと勉強してほしいと思っています。といっても『デザインが好き』というだけでは趣味のデザインになってしまう。世界を変えるのがデザインなのだから、デザイナーは世界のコンテクストをできるだけ知っておかなければなりません。政治も経済も学ぶ必要があるということです」
誰も見たことのない未来をつくりたい。だから子供の頃は映画のアートディレクターにも憧れた。「世界を変えるにはもっともっとパワーが必要。もしかしたらデザイナーより政治家になったほうがよかったかも?」とニコラ氏は笑う。
「街を歩いていると、目に見えるもの全部が気になって、変えたくなって苦しいぐらい。車にしても携帯電話にしてもテクノロジーは進んだけど、デザインのイマジネーションが止まっています。でも、優れたアイデアがあれば、エボリューションは必ず起こせると信じています」
- 代表取締役
G w e n a e lNicolas(グエナエル・ニコラ) 1966年、フランス生まれ。
88年、E.S.A.G(パリ)インテリアデザイン科卒業、
91年、RCA(ロンドン)プロダクトデザイン科修士課程修了後に来日。
フリーランス活動を経て、98年にキュリオシティを設立。
2004年、E.S.A.G名誉修士号取得。
- 株式会社キュリオシティ
所在地/東京都渋谷区富ヶ谷2-13-16
TEL/03-5452-0095
1991年に来日し、フリーランス活動を経たグエナエル・ニコラ氏が98年に設立したデザインスタジオ。インテリア、建築、プロダクト、グラフィックなど、多様なジャンルのデザインを手がける。海外案件も数多く、近年はラグジュアリーブランドの店舗デザインを各地で展開。作品集に『CURIOSITY ESSENCE』(ロフト・パブリケーションズ)がある。