建築にはまだまだできることがある。 時代の進化を見据え、新たな挑戦を――
澤田秀雄
真夏に窓を全開にしても涼しい家
「テーマパークを経営している人間がなぜこんなものを造ろうとしたか、不思議でしょ。我々は、将来ハウステンボスを世界に開かれた観光ビジネス都市にしようと考えています。未来の街である以上、“スマートシティ”でなければならない。その実現に向けた第一歩なのです」
澤田秀雄氏のいう“こんなもの”とは、2013年春、同テーマパークの一角に完成した「ハウステンボス・スマートハウス」のことである。
平屋建て、延べ床面積83.5m²の家の電力はほとんどすべてを太陽光発電などの自然エネルギーで賄い、給湯も太陽熱を利用する。加えて、屋根や壁面に特殊な断熱塗料を使用することで、冷房に関していえば約3割もの省エネを実現した。
「自然エネルギーの活用に知恵を絞るのは大事なことです。しかし一方で、いかにエネルギー消費量を抑えていくのかを真剣に考えなければ。それも我々に与えられた課題でした」
- 「省エネだから快適性は我慢しろ、というのではダメだ」と澤田氏は強調する
とはいえ、「省エネだから快適性は我慢しろ、というのではダメだ」と澤田氏は強調する。その意をくんで導入されたシステムの一つが、輻射冷暖房だ。温度調整を行う輻射バネルは、外径20mm×50mmの鉄パイプを束ねた構造で、パイプの内部を冷温水が循環する。エアコンのような気流は発生せず、冷暖房のムラもない。パネル自体が建物の構造体(壁)になっているのも、ユニークな点だ。だからスマートハウスには柱がない。
「東大生産技術研究所の川添善行専任講師が中心になって開発したものですが、やはり建築にかかわっていなければ出てこない発想だと感じました。昨年夏、自ら実験台になって宿泊したんですよ。輻射による“自然な冷房”には感動を覚えました。壁全体が冷やしてくれるので、真夏だというのに窓を開け放っても室温はさほど上がらず、風が実に心地いいのです」
- “総合芸術”の成否は建築にあり
“総合芸術”の成否は建築にあり
ところで澤田氏は、今回のプロジェクトを始めるまで「建築関連分野の方々とのつながりは、ほとんどなかった」そうだ。印象を尋ねると、「みなさん研究熱心で、“創造的発展”を共有できるのがいいですね。けっこう無理なお願いもするのですけど、一生懸命問題解決の道筋を探し、門外漢では考えつかない結果を出してくれます」という答えが返ってきた。
徐々に成果をかたちにしてきたスマートハウスを「実験棟」と位置付ける澤田氏は、次なる一手として200棟規模の「スマートホテル」を、やはりハウステンボス敷地内に建設する計画で、すでに設計に入っている。「ハウスで有用性が実証された技術を導入するほか、徹底的な自動化、ロボット化を進めます。完成すれば、世界一生産性の高いホテルになっているでしょう」
- 世界進出も視野に入れたホテルの竣工は、15年春頃を予定している。
世界進出も視野に入れたホテルの竣工は、15年春頃を予定している。
「ホテルも車と同じで、いろんな設備、技術が結集した“総合芸術”だと思うのです。ただ、どれだけスマート化を実現できるかは、土台である建築に依る部分が大きい。例えば省力化のために掃除ロボットを導入する場合、最初から掃除のしやすい空間設計を行う必要があるわけです。そうした総合的な視点に立った研究はまだ遅れているというのが、僕の印象。逆にいえば、そこにこれからの建築の大きな役割、チャンスがあるのではないでしょうか」
- 壮大な「都市の実験」にチャレンジを
壮大な「都市の実験」にチャレンジを
実はこのスマートハウス、ホテルには、まだ活字にできない幾多の新技術が集積され、現在実験段階にあるものも数多くある。スマート化技術実用研究のステージともなっているのだ。
「いろんなベンチャーのつくった海のものとも山のものとも、という製品や(笑)、研究所で開発したけれど試しようのない技術。そういうものを実際にハウスに設置して、実験を重ねていくのです。本当の性能や耐久性は、使ってみないとわからない。その結果、実用に供せそうな技術を残し、さらに改良を加えてかたちにする。ハウステンボスは私有地だから、ハウスやホテルだけでなく、全体で未来都市創造に向けた壮大な実験が可能なのです。もちろん建築分野からの挑戦はウエルカム。どんどんアイデアを持ってきてほしいですね」
- 澤田 秀雄
Hideo Sawada ハウステンボス株式会社 代表取締役社長 株式会社エイチ・アイ・エス 代表取締役会長 澤田ホールディングス株式会社 代表取締役社長