建築と不動産、業界間の分断された業務をつなぎ、新たな価値を創造する
高橋寿太郎
建築と不動産のあいだを追究する
大学時代は岸和郎氏に師事。卒業後は設計事務所に就職し、設計監理のチーフを約8年務めた。いずれ建築家として独立する、それが夢だった。
不動産会社に転職したのも独立資金を貯めるため。もっとも高橋氏自身は「清水の舞台から飛び下りる覚悟」だったという。かつての仲間たちに「建築をあきらめるのか」と批判されるのではないかと怖かった。
「淡い期待もありました。設計事務所にいた頃、デベロッパーからマンション設計の依頼を受けてもさっぱりわけがわからない。『建築家は〝いい建築〞をつくってナンボ』と思っていたんですね(笑)。でも、その〝さっぱり〞の謎が、不動産会社にいったら解けるかも、と」
不動産会社では、建築と不動産の違いを痛感した。不動産業界は「建築のことを何もわかってない」。だが建築業界は「顧客に対する理解の幅」で不動産業界に劣って見えた。
「土地と建物、お客さまからしたら一つなのに、2つの業界に分断されている。そこから『建築と不動産のあいだ』という問題意識が芽生えてきました」
不動産会社では開発、コンサル、賃貸管理からポスティングまで、あらゆる部署を経験している。営業にも回った。少し前まで設計事務所にいた人間に、数千万円の不動産を売るのは難しい。だが営業たるもの受注できなければ職を失う。止むを得ず、高橋氏は大学時代の後輩建築家たちを訪ねてみることに。最初に足を運んだのが木下昌大氏の事務所だった。
「先輩としてカッコ悪すぎだと思いましたよ。でもほかに思いつく術もなし。そしたら木下さんは嗅覚鋭い人物で、『仕事あります』と言ってくれた」
木下氏の知人が都内の分譲マンションを買おうとしている。だが土地を買い、木下氏の設計で戸建住宅を建てるのとどちらがいいだろう――こんな相談だった。「それで、ああ計算するよって。不動産会社でやっていたことですから」。住宅ローンもその場でシミュレーションしてみせると、木下氏が設計してもほぼ同じキャッシュフローで収まることがわかったのだった。
「私の不動産知識と木下さんの建築家としての能力が、ガチーンと合わさった瞬間でした」
そして、二人はタッグを組み、建築と不動産の両面からこの家づくりをサポート。結果、プロジェクトは大成功を収めた。
「僕は、建築家に家づくりを頼んだお客さまが、工事中に不安になることを知っています。完成数カ月前からの登記や銀行融資、税金と控除、保険の手続きなどについて、アドバイザーもおらず、やり方もわからない。そんなお客さまがイライラを建築家にぶつけるシーンを見たことがあります。ハウスメーカーならともかく、アトリエ系事務所にそこはサポートできません。でも不動産のプロとタッグを組めば何も問題なし。お客さまをもっとハッピーにできるんです」
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- 高橋寿太郎
たかはし・じゅたろう/1975年、大阪市生まれ。
京都工芸繊維大学 岸和郎研究室 修士課程修了。
2000年、古市徹雄都市建築研究所入所。
07年、不動産総合会社にて分譲開発、賃貸管理、営業、コンサルティングなど、様々な業務を経験。
11年、創造系不動産株式会社を設立。16年、東京建築士会「これからの建築士賞」受賞。
著書『建築と不動産のあいだ』(学芸出版社)。
一級建築士。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー。
- 創造系不動産株式会社
所在地/東京都港区赤坂6-6-19-205
TEL/03-6277-6653
http://www.souzou-kei.com/
2011年11月創業。建築家と不動産コンサルが協働する「VFRDCM」フローを武器に、不動産の仲介業務、建築家・デザイナーとのコラボレーション案件を多く手がける。ライフプランの相談、ファイナンシャルプランニング、土地探し、設計、工事、完成後の登記や引っ越しなど、家づくりの全フェーズを一貫してサポートする。創業の理念は「建設と不動産のあいだを追究する」こと。