誰も見たことのない美しい景色をつくりたかった。知恵と新技術を詰め込んだ、大阪の新たなランドマーク
株式会社竹中工務店
超高層集密都市――。地上300mの高さを誇る「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区)は、「ビル」でも「高層建築」でもなく、そう呼ばれることがある。いくつかの建物が組み合わさったような外観は、「超高層といえば対称形」の概念も吹き飛ばす。だがそこには、「そのカタチでなければならない」理由があった。今回は、計画スタートからおよそ7年間にわたってこのプロジェクトに携わった、竹中工務店設計部のメンバー4名にご登場いただこう。
“全体の前に部分”。前例のない設計に挑む
とはいえ、規模といい機能といい、設計部にとって未知のプロジェクトだ坂口氏は「指名された時には、神社にお参りに行きました」と真顔で言う。「通常、ビルの機械類は屋上に設置されます。しかし、ここの屋上は展望台や庭園なので、大きな設備は置けません。かつ、まさに都市の規模ですから小さな変電所や下水処理場を併設するようなスケールのプロジェクトになる今持っているスキルを100%出しただけでは、ゴールにたどり着けない、プラスαの発想と努力が絶対に必要だと覚悟を決めました」
同じく、「話を聞いた時には、恐怖に近いものを感じた」と語るのは、4人の中では最年少、当時入社8年目でデザイン計画関連を担った米津正臣設計第6部門設計グループ課長だ。
「超高層ビルは、建物の骨格など、まず全体を固めてから細部のデザインに入っていくのが定石。ところが、あべのハルカスは、超高層である前に、多様な活動が集積した複合体でした。『どうやったらそれぞれの機能が一緒に存在することで、より活き活きするか』をベースに検討を重ねながら、全体を有機的に組み上げていきました。設計のプロセスが、全然違う。そこで考えたのは、建物のデザインが様々な関係者の合意形成のプラットフォームのようになって、議論を深め関係を豊かに醸成させていくようなあり方です。今から思うと合意形成のブロセスがそのまま建築になったようなプロジェクトだった、と僕は感じています」
また、平川氏は「途中で東北地方太平洋沖地震が発生し、建物の構造に対する社会の目は、一段とシビアなものになりました。そんな状況下で、日本一の超高層ビルを建てるというのは、今考えてもチャレンジャブルなものだったと思います」と振り返る。
「同時に、スケッチなどで思い描いていたものが実際にカタチになっていく“ライブ感”は最高でした。できた建物も、本来ダークなコアの部分に光が差し込み、構造自体が内からも外からも透けて見えるという、今までなかったもの。いろんな方を見学にお連れするのですが、自分でつくった空間を説明しながら、その魅力に感心している、というところもありますね」
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