建築は都市空間をつくる一つの要素。周辺を含めた環境づくりに目を向け、“全体”をよくしていく――。そういうパブリックデザインの視点が今後ますます重要になる
亀井忠夫
言わずと知れた日本最大の設計事務所・日建設計を統括する亀井忠夫は、今も、一人のデザインアーキテクトとして現場に立つ。グループ全体で見れば、職員数約2500名。世界第2位の規模となったこの大所帯を牽引する社長業と建築家業、傍目には切り替えが難しいように映るが、亀井はそれらを両輪として重んじ、泰然とこなしている。もとより、建築だけでなく、社会環境デザインに強い志向を持つ亀井にとって、〝総合力〞ある日建設計は水が合う組織だったのだろう、その実力をいかんなく発揮してきた。「クイーンズスクエア横浜」「さいたまスーパーアリーナ」、そして近年の「東京スカイツリー」などといった代表作に見られるように、どの時代においても亀井の眼差しは、「より美しい環境デザイン」に熱く向けられている。
現場を重んじるトップマネジメントで、組織を活性化
以降、亀井は「クイーンズスクエア横浜」「さいたまスーパーアリーナ」などの大規模プロジェクトを次々と手がけてきた。亀井が入社した頃は1000人ほどの規模だった日建設計も大きくなり、複合開発プロジェクトが増えるにつれ、その守備範囲も、従来の枠組みを超えて拡大。〝総合力を発揮するプロ〞へと、亀井は、会社の成長と軌を一にしてきたのである。
こと2000年代に入ってからは、複合開発や超高層ビルプロジェクトが同時並行で進行するようになり、我々が担う役割も変わってきました。それまでの建築設計・監理といった枠を超えて、設計の前段階にある都市計画、あるいは、ディベロッパーなど数社にわたる事業者間の調整やプロジェクト・マネジメントなど、日建設計が携わる領域が広がったということです。アーバンデザインやエンジニアリングなど、様々な角度からカバーできるプロ集団としての立ち位置は、組織設計事務所ならではの強みだと思うんですよ。だからこそ我々は、いろんな部門を横断することで生まれる相乗効果を、人や社会に提供しなければならないのです。
その意味で、「東京スカイツリー」は、日建設計の総合力を注いだプロジェクトだといえます。計画初期から推進業務を担い、環境アセスメントや周囲とのデザイン調整、CG作成など、プロジェクトにかかわった職員は100名以上。僕が担当したのは、全体のデザイン統括と、プロジェクト推進のためのマネジメントです。東京タワーより狭い敷地に倍近い高さのツリーを建てるという計画に、スタートから試行錯誤の連続でしたが、東京の新たなランドマークを生み出すために、総合力を結集して一つの解を出した。当然、長寿命建築を実現するべく、現代の最先端の材料と技術を採用していますが、これが50年後、100年後にどう評価されるか、楽しみではありますね。
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亀井が執行役員として設計部門代表になったのは06年、それから10年経たずして社長に就任している。〝順調な出世〞には違いないが、「プロジェクトに追われてきたので、自分のポジションをあまり意識したことがないんですよ」と、当の本人はいたって淡々とした様子。しかしながら、国内外で多くの実績を持ち、人望も厚い亀井に期待が寄せられているのは確かだ。
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世代交代が必要な時期だったのでしょう。前社長から「やってくれ」という話をもらった時は、学級委員長を頼まれたような感覚でした(笑)。あまり深刻に考えると、イヤになりますから。僕はマイペースなのかもしれません。その昔、プロジェクトを共にした上司から「お前は全然いうことを聞かない」と言われたことがあって。僕としては聞いていたつもりだから「えっ?」と。悪くいえば、自分のことがわかっていないし、よくいえば、周りに左右されないということでしょうか。
社長になってから実践したことの一つに、デザインレビューの活性化があります。以前から設けてはいたのですが、上層部で議論して決めるという感じだったので、それを「誰が参加してもOK」とし、活発に意見を言い合える場にしました。今、毎週月曜日にやっていますが、だいぶ意見が出やすくなったという手応えはありますね。組織が大きくなると、どうしても実務から離れていきがちです。デザインだけでなく、様々なプロジェクトが動いているなか、肝を握るのは最後のアウトプットを担う設計の現場。個々の現場で起こっていることをタイムリーに共有することは、組織全体において非常に重要だと考えています。
それと、年4回「Quarterly Message」というのを開催しているんですけど、これは、僕や各部門の統括が東京だけでなく、大阪、名古屋、九州を巡回して、トップからのメッセージを伝える場として設けたものです。今起きている、いい話も悪い話も率直に。もちろん、この場での発言も自由ですし、対面ですからね、僕らと現場でやっている人たちの距離が近くなったと感じています。
繰り返しになりますが、僕らの仕事はアウトプットが勝負になる。現場の皆が何を感じ、どう動いているのか、そこをわかっていないと経営判断ってできないと思うんですよ。改革というほど構えた話ではないけれど、「こうあったほうがいい」と思うことには、わりにストレートに取り組んでいるつもりです。
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- 社会環境づくりへの貢献と海外活動の拡充。その飛躍に向けて
1955年1月 兵庫県西宮市生まれ
1977年3月 早稲田大学理工学部建築学科卒業
1978年7月 ペンシルバニア大学芸術学部大学院
建築学科修了
HOKニューヨーク事務所勤務(~79年)
1981年3月 早稲田大学大学院理工学研究科
建設工学専攻修了
4月 株式会社日建設計入社
1997年4月 設計室長
早稲田大学建築学科非常勤講師
(~00年3月)
2000年4月 東京電機大学建築学科非常勤講師
(~03年3月)
2006年1月 執行役員 設計部門代表
2012年1月 常務執行役員 設計担当
2013年3月 取締役常務執行役員 設計部門統括
2015年1月 代表取締役 社長 執行役員