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建築には人を変える力がある。多様な空間の“最適解”を探究し続け、常に利用者の期待を超える設計を!

建築には人を変える力がある。多様な空間の“最適解”を探究し続け、常に利用者の期待を超える設計を!

シーラカンスK&H

工藤和美氏と堀場弘氏が共同主宰するシーラカンスK&H。2人を含む東京大学原広司研究室の院生6人が1986年に共同設立した「シーラカンス」が、98年に同社とシーラカンスアンドアソシエイツに改組した。

改組前から「大阪国際平和センター」「千葉市立打瀬小学校」などの公共建築を手がけ、現在も学校関連の案件が全体の7割を占める。2012年度には「金沢海みらい図書館」が日本建築家協会賞を、14年度には「山鹿市立山鹿小学校」がJIA日本建築大賞を受賞した。

こうした高い評価はどこに起因するのか。一つは「つくるプロセス」にあると両氏は言う。

「昔は『建築家の言うことには誰も口を出さない』という風潮がありました。しかし私たちは行政や先生、地域住民の意見をワークショップなどで吸い上げながらつくります。ですから竣工時に発注者もユーザーもすごく喜んでくださる」(工藤氏)

「『公共建築は誰のものか』といった議論もあるなか、プロセスを多くの人たちと共有し、彼らが期待する建築をプロとしてつくるという手法が時代に求められたのだと思います」(堀場氏)

行政や市民を巻き込む際には、〝模型〞が大きな役割を果たしている。01年に竣工した「福岡市立博多小学校」は4つの小学校を統廃合したもの。猛烈に反対していた住民と話し合い、そこで得た意見で基本設計をまとめ、模型に仕上げた。これが、いわば議論の土台になる。

「私たちが何を考えどんなものをつくろうとしているのか一般の皆さんに伝える時、大きさ50分の1ほどの模型にすると理解度が全然違います。ものが目の前にあると、また健全な意見が出てくるのです」(堀場氏)

「そこで議論が紛糾するかというと、そうはなりません。模型があって、こちらに説明する力があれば何倍も深く納得していただける。うまくまとまるのです」(工藤氏)

建築家のみならず、発注者や利用者までが参加して建築をつくる時代。しかし、答えを導き出すのはやはりプロたる建築家の役割だ。「四角がいいと言われてそのまま四角にするわけではない」と堀場氏。「金沢海みらい図書館」は天井高約12mの大空間と、室内を満たすやわらかな光が特徴。プロポーザルで提案した「やわらかな光」という案を、壁面に無数の丸いガラス窓を設けることで実現した。 

「模型をつくりましたが、大きなスケールの空間ゆえ、本当に丸い窓でいいのか、自然光でどのように表現できるか、試行錯誤を繰り返しました」(堀場氏)

「最終的には、かかわる人たちの期待を超えたものをかたちにするのが、私たち建築家の役割だと思っています」(工藤氏)

事務所は現在18名という規模。人手は正直、不足気味だ。

「公共の仕事は構造的、法律的にも複雑で難易度が高い。膨大な関係者を束ねる必要もある。そういうチャレンジに関心がある人を求めたい」(工藤氏)

「厳しい条件を超えた〝解〞をいかに出すか。そこに面白さがある」と二人は口を揃える。案件によって使える材料も、発注者の人柄も違う。料理にも似て、建築は本来、地産地消なのだという。案件ごとに〝枠〞は異なり、したがってどの建築も〝一品生産〞になるのが必然だ。

「ただし、僕らも新しいものをつくりたくてやっている。既存の枠のなかで緻密な仕事をしながら、同時に枠を超えていきたい。僕らは構造や設備の人とも常に意見をキャッチボールしますが、それも何か新しいものをつくり出す手がかりになるはずと思ってのこと」(堀場氏)

「建築が人を変える、ということを私たちはしばしば体験しています。福岡市立博多小学校の例では、開校して15年が経ち、地域の世帯数が目標の2倍以上に増えました。近隣にはマンションが建ち、経済効果も大きい。公共建築には、個人住宅や商業施設とはまったく違う、新しい未来をつくり上げる力があるんですね」(工藤氏)

PROFILE

堀場 弘(ほりば・ひろし)(左)

堀場 弘(ほりば・ひろし)(左)

シーラカンスK&H株式会社

代表取締役 堀場 弘(ほりば・ひろし)/

1983年、武蔵工業大学建築学科卒業。

86年、東京大学大学院修士課程修了後、

シーラカンスを共同設立。

98年、シーラカンスK&Hに改組。

東京都市大学建築学科教授。

一級建築士。

工藤和美(くどう・かずみ)(右)

シーラカンスK&H株式会社

代表取締役 工藤和美(くどう・かずみ)/

1985年、横浜国立大学建築学科卒業後、

86年シーラカンスを共同設立。

91年、東京大学大学院博士課程修了。

98年、シーラカンスK&Hに改組。

東洋大学建築学科教授。

一級建築士。

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