空間が担う役割は大きく変化している

あらゆる生活・事業に必要な施設の空間デザイン、内装施工、インテリア販売を手がける三井デザインテック株式会社。提供するサービスの領域は、ＢｔｏＣの「住宅系」とＢｔｏＢの「非住宅系」の大きく２つに分けられる。前者は、主に分譲住宅の入居者に対し、インテリアコーディネートの提案と家具の販売を行うこと。後者は、顧客のビジネスをサポートするために最適な空間デザインを提案し、施工すること。

同社の最大の特徴は、手がける業務範囲にある。住宅、オフィス、ビル、ホテル、商業施設、医療・福祉施設と非常に幅広い。「私たちデザインマネジメント部は、その特徴を武器に事業戦略を立てています。幅広い領域の知見を混ぜ合わせることにより、顧客に提供するソリューションの価値を向上させるのです。この手法を、私たちは『クロスオーバーデザイン』と呼んでいます」とデザインマネジメント部の見月伸一部長は語る。

クロスオーバーデザインの誕生には、空間が担う役割の変化が大いに関係しているという。「例えば、インターネットの普及により、オフィス以外でも仕事ができるようになり、カフェや通勤電車が〝仕事場〞の役割を果たすようになった。あるいは、シェアリングサービスの普及により、住宅が〝ホテル〞として使われることも」と見月氏は例を挙げる。

「つまり、一つの行動を目的とした空間の価値が下がり、複合的な役割を果たす空間の価値が上がっているというわけです」

近年、クロスオーバーデザインは海外からも大きな注目を集めている。昨年は、この手法を使ったデザインが、英国ロンドンで開催された世界的なホテルデザインコンペで審査員特別賞を受賞した。

顧客の課題をデザインで解決する

デザインマネジメント部の陣容を見ると比較的若く、女性比率が高い。新卒・中途どちらも定期的に採用しているが、中途入社者の中には「より幅広い空間領域にチャレンジしたい」「クロスオーバーデザインの概念を習得したい」など、自身の能力の幅を広げることを目的とした志望動機が目立つ。現在、約30名のメンバーがデザイン・設計を行っている。

彼らが共通して持っているのは、「空間デザインとは、単に意匠を凝らすだけのものではなく、顧客の課題を解決するもの」という理念。つまり、どんなに斬新なデザインが生み出せても、それが顧客のビジネス価値をどう高めるのか、説明できなければ評価はされない。

例えば、日本赤十字社の献血ルームのリニューアルプロジェクトでは、若者の献血離れが課題として挙げられていた。そこで、「若者も気軽に訪れることができ、寛げるように」と担当デザイナーが提案したのは、献血ルーム全体をお洒落なカフェ空間に変えることだった。結果として、同ルームへ献血に訪れる若者は増え、顧客にとても喜ばれたという。

「弊社でデザイナーを務めるなら、デザインスキルは当然のこと、事業や経営的ベネフィットを語れるスキルも高めていかなければなりません。加えて、顧客のことをよく知ることも大事。なかには、オフィスの案件を担当したデザイナーが、顧客の働き方や文化を理解するために、オフィスで〝一日社員〞を体験させてもらった例もあります」

デザインの役割や重要性は、時代とともに変わり続ける。今後は、「各領域におけるデザインのスキルアップはもちろんのこと、〝人間力〞の向上も重要になる」と見月氏は言う。

「弊社は、デザインのみならずマーケティングにも力を入れている会社です。多角的なコンサルティング能力を発揮し、お客さまから選ばれ続けなければなりません。変わりゆく時代のなか、いかにして、その一歩先を行くか。常にデザインのあり方を考え、戦略を練り、世の中に貢献できるデザイナーを育てていくこと。それが私の使命であり、この仕事における最大の喜びとなっています」