予定調和はつまらない。期待を超える“裏切り”で、世の中をより豊かに、より楽しい環境に変革する
サポーズデザインオフィス 谷尻 誠/吉田 愛
「建物の設計から学んだことは、あらゆる分野に置き換えられるんですよ。それこそ家具づくりにも、菓子づくりにも」。建築設計事務所サポーズデザインオフィスを率いる谷尻誠と吉田愛。広島と東京の2拠点を行き来しながら、住宅、商業空間、インスタレーション、プロダクトと縦横無尽な活動を続ける。2017年には社員の食堂でありながら一般客も利用できる「社食堂」を東京オフィスにオープン、さらには「絶景不動産」の名で不動産事業にも進出。いずれも、旧来の建築事務所の枠を揺さぶる〝技〞の賜物にほかならない。
建物だけがよくても、人が来なければ何も生まれない
「よりコンセプチュアルに」とはどういうことだろう。
「自分たちのつくりたいものを提案してそのまま形になるのもいいんですが、予定調和で物事が進んでいくという意味ではつまらない。それより、人の意見を取り込んで、自分たちが思いもよらない場所に行ける方法論でものをつくっていくほうが新しいし、感動できると思うようになったんです。つまり、あえて不自由なやり方を選ぶということなんですけど。考えてみればお客さまも『安くて広い家を』と矛盾を要求してくるわけで、人から求められるものと自分たちが考えていることが一致し始めたんですね」(谷尻)
建築家の意向を依頼者に押し付けるでもなく、依頼者のいいなりでもない。こうしたものづくりには、愚直ともいえるほど丁寧なコミュニケーションがつきものだ。クライアントの意向や予算や敷地など複雑に絡み合った諸条件を汲み取りながら、シンプルな解答を提案する。
「建築家は弁が立つので、お客さまを説得しようと思ったらできてしまう。でも時間が経つと魔法がとけて『こんなはずじゃなかった』と言われかねません。偉い建築家がよく『裁判になった』と勲章みたいに自慢していますけど、僕はそういうのは嫌なんです。やはり説得ではなく納得がルール。お客さまにいろんなことを聞いて『あなたがこの言葉をくれたからこの案ができた』と言えるだけの〝共犯関係〞を結ぶことが大事で、コミュニケーションから逃げてはいけない。それが大変だとは思わないです。それでお客さまに喜んでもらえるなら嬉しい。営業の仕事と同じですよね。自分たちの得より相手の得、それだけをひたすら考えるんです」(谷尻)
頼まれた以上のことを提案する姿勢は、下請け仕事をしていた創業間もない頃から変わっていない。かつてはそれが疎まれたが今は喜ばれる。指名コンペも多く、勝率は8割にのぼるという。何が変わったというのか。
「時代が僕らに追いついてきたんじゃないですかね(笑)」(谷尻)
「ホテルの提案をする時も、アメニティもロゴもプロモーションも提案するんです。それも昔からやっていたこと。頑張ってレストランを設計してもメニューがダサかったら嫌、だったら自分たちでやるみたいな。その延長線なんです。建物だけがよくてもいい空間はできないし、人が来なければ何も生まれない、そういうことまで考えた設計が必要とされている」(吉田)
- 【次のページ】
- 食堂も不動産会社も。自分たちの役割は既成概念を壊すこと
- (左)谷尻 誠
1974年、広島県生まれ。
94年、穴吹デザイン専門学校卒業後、本兼建築設計事務所入所。
99年、HAL建築工房入所。2000年、建築設計事務所Suppose design office 創業。
14年、SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd.を吉田愛と共同設立。
穴吹デザイン専門学校特任講師、
広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授。
- (右)吉田 愛
1974年、広島県生まれ。94年、穴吹デザイン専門学校卒業後、株式会社井筒入社。
96年、KIKUCHIDESIGN入所。2001年、建築設計事務所Suppose design officeに参画。14年、SUPPOSE DESIGNOFFICE Co.,Ltd.を谷尻誠と共同設立。
- サポーズデザインオフィス
創業/2000年10月
代表者/谷尻 誠、吉田 愛
HEAD OFFICE/広島市中区舟入本町15-1
TOKYO OFFICE/東京都渋谷区大山町18-23 B1F