食堂も不動産会社も。自分たちの役割は既成概念を壊すこと

必然的に、旧来の建築家像をはみ出す仕事が増えていくが、「それこそ自分たちの役割」と二人は感じている。

「インテリアの仕事をする時も建築的に考えるんですよね」（吉田）

「インテリアというと要は内部空間の設計ですが、建築家がインテリアを見ると建物がそうであるようにインテリアも街の一部に見えてくる。今、インテリアと建築の間の部分が抜け落ちていて、インテリアと建築の思考が化学反応を起こすようなつくり方ができる人間は限られています。でも、その間をなんとかするのが面白いし、それをやるのが自分たちなんだと」（谷尻）

間を埋める。枠をはみ出していく。こうした姿勢は同社の組織運営にも及ぶ。例えば、今年東京オフィスにオープンさせた「社食堂」。第一に、これは忙しいスタッフの健康管理のためにつくった〝社員の食堂〞である。

「アトリエ事務所は面白いけど休みがなくてつらい。組織設計事務所は給料はいいけど仕事が面白くない。なぜその間がないのかと思うんです」（谷尻）。

「社食堂」はまた、一般客が利用できるレストランでもある。子供連れもご隠居も、社員の隣で食事をとる。自分たちの社食代わりに利用する会社もあるらしい。オフィス横に併設されているため用途も曖昧だ。スタッフがミーティングをしていればそこは会議室になり、コーヒーを飲めばカフェスペースにと空間の用途が移ろっていく。オフィスと食堂、社員と住民といった線引きを意図的に避けた空間づくりだ。

「何でも、あまり決めつけないようにしてるんです。決めない、ということを決めているというか」（谷尻）

建築設計にとらわれない活動の幅広さから、〝総合商社〞とも呼ばれてきた彼ら。17年には不動産事業「絶景不動産」を立ち上げ、さらには「施工会社もつくりたい」と、一つの建築家像に縛られない姿勢は相変わらずだ。

「でも得意なのは結局〝設計〞なんです。建物をつくるだけが設計じゃない。食堂をやるのも、人が健康になるよう細胞を設計してるようなものだし。目的のためにどんな仕組みが必要で、それをどう組み立てて、どう並べるかって全部設計で学んだこと」（谷尻）

「そう考えればどんな仕事もできるんです。今では食品もつくれば、キッチンも水洗器具も壁紙もデザインします」（吉田）

とはいえ〝何でも屋〞になりたいとは思わない。建築設計事務所なのにこんなにいろんなことができる、というスタンスは貫くつもりだ。

「そもそも僕らのキャラクターはわかりにくい。はっきり〝建築設計〞と謳ったほうがいい。それともう一つ、建築家は幅広く考えられる職業なんだ、という認識をもっと広めたいんです。そうしたら、僕ら以外にも、様々な相談を持ちかけられる建築家が増えていくと思うんですよね」（谷尻）

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