アルメニア、ジョージア、トルコ東部に
分布する歴史建築の調査研究を進め、
新たな歴史的価値と保存対策を探究
東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 藤田研究室
建築技術に着目し、教会建築を分析する
東京工業大学環境・社会理工学院建築学系の藤田康仁准教授は、東アナトリア地域(アルメニアからジョージア、トルコ東部にわたる)の歴史建築の調査および研究を行っている。
父親が設計の仕事をしていた影響から東工大の建築学科に進学。建築を勉強していくなかで、新たな建築物の設計より、すでにある建築の成り立ちを考えることに興味を覚え、建築史を専攻した。
「先人たちが建物を、どういう思いで、どんな論理でつくったのかを探ることも、一方で純粋に建築を考えることだと気づいたのです」
大学院から篠野志郎教授に師事し、アルメニアのキリスト教建築の調査に同行する。
「最初は、漠然とイスラーム建築をやりたいと思っていたのですが、アルメニアという国の成り立ちを調べていくなかで、そもそも自分が東西文化の接点で生み出された建築に惹かれていたことに気づきました」
1998年にアルメニアで最初の調査を行い、その後は東トルコ、シリア、ジョージアに範囲を広げた。これまで、360余りの歴史建築を悉皆的に調査してきた。
過去にもこの地域の教会建築の研究はされていたが、平面の形状ばかりに注目されてきた。
しかし、実際に建築物を訪れると、平面の分類は同じでも、外観も内部空間の印象もまったく違う例が少なくなかった。
「平面は建築の一側面を表してはいるが、多分に概念的。単純に平面の形だけを見ても建築を十分理解できないことが調査によって浮かび上がってきた」
そこで藤田准教授は建築技術から見た建物の特徴に着目。
どのような形の石材を組み合わせて構築されているか、建物の下部から上部へ段階的に見てみると、ドームへと至る形態の構成に2つの系譜が見いだされた。
こうした構築物としての成り立ちから建築の新たな理解を試みている。
東アナトリアは歴史的に、様々な強国の支配に苦しみながら文化的な交流もなされた。
そうした歴史的背景のなかで、建築技術という普遍的な視点なら、教会建築もイスラーム建築も、宗教を超えて相対的に捉えることが可能だという。
「建築技術の観点から見渡すと、この地域の建築文化が全体としてどう展開したのかが見えてきます。
そんな新しい切り口を見つけるのも研究の面白さです」と藤田准教授は語る。
調査により歴史的価値を見いだされた建築物でも、保存にはいくつかの問題がある。
地元の人たちが建物の価値を理解していなかったり、遺跡としての保存を望まない場合もあるからだ。
「文化によって大事にするものは違う。単に押し付けるのではなく、現地の人と価値観や歴史的な意味を共有しながら将来的にどう残すかを考えていきたい」
現地研究者や地元住民との共働を通じて、研究を社会に還元することも目指している。
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フィールドワークは〝狩猟的研究〞
- 准教授 博士(工学) 藤田康仁
ふじた・やすひと
1997年、東京工業大学建築学科卒業。
99年、東京工業大学大学院人間環境システム専攻修士課程修了。
2003年、イタリア・ローマ大学ラ・サピエンツァ交換留学。
05年、東京工業大学大学院人間環境システム専攻博士後期課程修了。
環境造形学園ICSカレッジオブアーツ講師、
東京工業大学大学院総合理工学研究科助手、助教を経て、
15年8月より現職。