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強い思いを持つ人々との仕事をとおして、建築の力で社会を変えていきたい

強い思いを持つ人々との仕事をとおして、建築の力で社会を変えていきたい

大西 麻貴

新しい価値観を空間に置き換えていく

中学生の頃、スペインで目にしたサグラダ・ファミリアに心を奪われた。

「ガウディの死後もその遺志を継いで建築が進められ、それが同時に街の歴史の一部になっていく風景が素晴らしいと思いました」

 学生時代は京都で過ごした。現在「o+h」を共同主宰している百田有希氏は、建築学科の同級生だ。「彼は当時から図面も模型も上手。私はどちらも得意ではなかったんです」と、一時は建築設計以外の道が頭をよぎったこともある。だが大学2年の時、非常勤講師だった伊東豊雄氏との出会いが、大西氏のキャリアを決定づけた。

「3年生向けの授業に勝手に参加し、伊東さんを追いかけて自分の案を持参してアドバイスをいただいたりしていました。伊東さんの話を聞くうち、建築家が多くの人の気持ちを集めて形にする、夢を実現していく仕事だとわかったんです。それから建築家になりたい、という気持ちが強くなりました」

 大学4年の夏から百田氏との共同設計がスタート。京都大学を卒業後、百田氏は京大大学院に残り、大西氏は東大大学院へと進路が分れたが、「千ヶ滝の別荘」など共同設計は続いた。o+hの立ち上げは両氏が大学院を修了した2008年のことである。
 11年、「二重螺旋の家」で新建築賞を受賞した。中央に部屋が積み重なり、その周囲を二重の廊下が巻き付く構成。路地から廊下、リビング、階段、寝室とシームレスに空間をつなげている。

「施主がおっしゃっていたのは、敷地は小さいのに、体験としては長い。1年住んでみたけど家の全部を楽しみ尽くしていない、と」

 強い思いを持った施主と一緒に仕事をする機会が多いと大西氏は語る。グッドデザイン賞2017に選出された「Good Job! Center KASHIBA」もその一つ。アートを通じた障がい者の社会参加を支援してきた一般社団法人たんぽぽの家が運営する施設だ。就労支援や生活介護など4つの機能を備える。

「たんぽぽの家の方からこんな言葉を聞きました。違いを認め、違いを大切にすること。ここに集うすべての人たちが、その人のままでいられること。誰もが自分の可能性を信じ、能力を最大限発揮できる環境をつくること。これはどの建築においても考えていきたいテーマ。すごい、と思いました」

 印象深い出来事がある。障がいのあるメンバーが自分の作品についてプレゼンする場面に立ち会った時のこと。メンバーがプレゼン中に失敗してしまった時、周りからどっと笑いが起きた。


「笑われた当人は〝してやったり〞みたいな顔をしているんです。それを見て、『笑っていいんだ』と。笑うということが、愛情の一つの表れであり、笑い合って乗り越え、認め合えることがたくさんあることに気づきました。そんな価値観を形にしたいと考えたのが、GoodJob! Center KASHIBAです。大きなテーブルで他の利用者と一緒に創作をする人もいれば、空間の片隅に一人の場所をつくっている人もいる。それぞれが自分にとって居心地のいい場所をつくれる空間です」

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PROFILE

大西 麻貴

大西 麻貴
おおにし・まき

1983年、愛知県生まれ。
2006年、京都大学工学部建築学科卒業。
08年、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。
同年、大西麻貴+百田有希/o+h共同主宰。
11年、横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手(~13年)。
16年より京都大学非常勤講師。
17年より横浜国立大学大学院Y-GSA客員准教授。

一級建築士事務所 
大西麻貴+百田有希/o+h

所在地/東京都中央区日本橋浜町3-10-1-1階
TEL/03-6264-9876
http://www.onishihyakuda.com/

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