日本各地の住まいの成り立ちを現地で調べ、 次代に引き継ぐ“意味と形”を研究――。 建築の“継承と更新”を探求し続ける
工学院大学 建築学部 建築デザイン学科 冨永研究室
3次元の建築を2次元に表現する
一方、同研究室では、建築の魅力や空間の面白さを伝える2次元のアウトプットも重要視している。調査や考察の結果は多くの目に触れることで、人々の関心を喚起できる。しかし、実物の建築は現地に足を運ばなければ見られないため、伝える方法には工夫が必要だ。例えば昨年度は、調査分析をより手に取りやすい雑誌風に編集した本を制作した。また、着任時から毎年制作している「ゼミ本」と呼ばれる研究室の活動日記は、学年を越えて互いの研究活動を共有し、学ぶ手がかりとしても重要な存在となっている。
■注目の研究
こうした活動の土台は、冨永教授が建築を学んだ東京藝術大学にある。所属した片山研究室では中国の客家や、台湾の騎楼のサーヴェイに携わり、人の生活に入り込む面白さに魅了された。また東京藝大では「過去の優れたものを見て描くことで学びを得る」という姿勢が全学部の基本となっている。それらの経験が、創作を自分本位で考えるのではなく、歴史から継承すべきことを学んだうえで、新しい形に結び付けるという思想の根源となった。
冨永教授は、授業では住宅インテリアを担当しており、学部3年生は1960年以降の日本の住宅をピックアップし、20分の1模型を制作する。手を動かしながら分析することで、著名建築家の思想や設計手法を体得するのが目的だ。
実は、冨永教授は「ちばてつや賞」に準入選を果たした漫画家という側面も持っている。現在も、建築雑誌にテキストと漫画で構成した建築物紹介の連載企画を担当している。また、自身の設計事務所で制作中のドイツ近代木造建築に関する本では、新しい建築ドローイング表現に挑戦している。
「調査の際に関係者からお聞きした様々な話を、建築の継承と更新のテーマにつなげ、新しい物語としてアウトプットし続けたい。学生たちには研究室活動をとおして、建築をつくる〝意味〞を常に深く考える姿勢を身につけてほしいと願っています」
- 教授 冨永祥子
教授 とみなが・ひろこ
1992年、東京藝術大学大学院美術研究科修了後、香山壽夫建築研究所入所。
2003年、福島加津也+冨永祥子建築設計事務所設立。
11年、工学院大学建築学部建築デザイン学科准教授。現在は教授。
15年、日本建築学会賞(作品)など受賞多数。