オランダ留学時の学びで研究の道へ。 国内外の地域計画に携わりながら、 未来に役立つ“点と線”を提案する
東洋大学 理工学部 建築学科 地域デザイン研究室
自助的な動きを促すまちづくりを提案
オランダの都市計画をつぶさに見た田口氏が、帰国後に目を向けたのが日本の地方都市だ。ヨーロッパでは地域ごとに残る独自の文化を誇りにして継承する人々が多いが、日本の地域の個性は薄らいでいくばかりに感じられた。東工大の博士課程修了後、米子高等専門学校で教員として地域計画を担当した後、佐賀大学に赴任して最初に手掛けたプロジェクトでは、地域の活性化を目指して空き家を学生のシェアハウスにリノベーションした。
〝モノづくりからコトづくりへ〞という考えのもとに学生と多くの仕組みを展開していたが、まちづくりに自分がいつまでもかかわり続けることが本当に正しいことなのかと悩むこともあったという。一過性である〝コトづくり〞のさらに先に駒を進めるためには、地域が自助的に動く仕組みを提案することが必要なのではない
か――。
「例えば、古くから存続する神社で何らかの祭りが継承されていくように、小さくても有効な〝点〞を地域の中に残し、埋め込んでいくべきだと考えました」
2017年、東洋大学に着任後は、佐賀県有田町の江越邸を拠点にしたまちづくりプロジェクト「Future Arita」を展開。学生が地域住民と共にまちの方向性を議論し、そこで言語化した未来像をアーティストが作品として表現するという流れをつくり出した。
「継続的なまちづくり進展のためには、地元の人たちをエンパワーする必要があります。アートによる未来のシナリオのビジュアル化には、地域の人々の共通認識を高め、議論を誘発させる効果を発揮してくれました」
その後、東洋大学と縁のある自治体のまちづくり計画策定プロジェクトにも参画。課題となっていた役場跡地の利活用だけでなく、点在させたいくつかのまちの機能をつなぐ動線を含めた提案により、将来的にまち全体を活性化する展望を示した。
「将来像を見据えたうえで、まちの動線を整理しておけば、後々に民間企業も参入しやすくなるはずです。こういった地域計画は、未来の機会ロスを防ぐ手立てでもあると考えられます」
田口氏の実家は飛騨地方で重要無形文化財の祭りを取り仕切っていた家系である。そこで行われる「予祝(よしゅく)」という祭りは、豊作をあらかじめ祝ってしまうというものだ。
「私が今やっていることも同じだと思うのです。最初に関係者全員で将来像を認識し、発火点となり得るいくつかの点=場所
を用意することで、まちづくりが自然と前に進んでいく――まちづくりとは〝予祝〞そのものなのではないでしょうか」
- 准教授 博士(工学)田口陽子
たぐち・ようこ/
1997年、東京工業大学工学部建築学科卒業。
2001年~02年、オランダ・デルフト工科大学建築学部留学。
05年、東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻(博士課程修了)、同大補佐員。
06年、米子工業高等専門学校建築学科助手・助教。
08年、佐賀大学理工学部都市工学科助教・講師・准教授。17年より現職。
一級建築士。