“つながるBIM”への進化を後押し。 建設業界にかかわるすべての人を より豊かな人生に導くため、 早期のオープン化に尽力する
新菱冷熱工業 SHINRYO CORPORATION
空調設備をはじめとする設備工事の大手・新菱冷熱工業は、昨年10月、技術統括本部に「BIM推進室」を新設した。「単に便利なツールの導入を図ろうというのではなく、〝つながるBIM〞を実現するというのが、我々の役どころです」と語る谷内秀敬副室長に、その意味するところを聞いた。
〝設備〞だからこそ強く貢献できるBIMの業界普及
国土交通省管轄の全国建設研修センターでBIMの講師も担当している谷内氏が、あえて〝相手の生産性向上〞を語るのには、理由がある。
「私はよく〝外堀を埋める〞と言うのですが、わざわざ越えなくてはならない堀をそのままにしておくならば、その内と外でいくら電子化を進めても、その効果は限定されたものにとどまってしまう。そこを埋めて行き来が自由になれば、当社の効率が一気に上がると同時に、一緒に仕事をしている建設会社さんやダクト専門工事協力会社さんなどの生産性も、間違いなく上がる。他社にそのメリットを伝授するのは、自分たちのためでもあるのです」
実は〝つながるBIM〞の旗を振るのに、設計、施工、構造といった多くの分野に接する〝設備〞は、格好の立ち位置にあった。ある意味、建設会社にも設計事務所にも難しい役割を担える場所にいた、と言ってもいいだろう。
「IFCの標準化などを通じ〝オープンなBIM〞の普及に取り組むbSJ(社団法人buildingSMART Japan)の山下純一代表理事に、『建築ばかりが声を上げていても、データの共有化などは進まない。建物に機能を持たせる設備は、BIMの意義を語り、広げていくためのキーマンになれるはずだ』と言われて、なるほどな、と。それで、bSJにも参加しました」
日本の建設業界の将来を展望し、同社が目指しているような方向性を国レベルで後押ししようという機運も高まっている。20年3月には、有識者などからなる国土交通省の「建築BIM推進会議」が『BIM標準ガイドライン』を策定した。
「ガイドラインでは、『施工技術コンサルティング』という新たな職能が定義されました。設計から施工へ、BIMを円滑につなげるのがその役割で、具体的には、施工に関する知見を持つ技術者が設計に参画して、より発注者のニーズに合致した仕様選定などに結実させようというものです。〝つながるBIM〞を実現するためには、そのように建物のライフサイクルを通じたBIMのコンサルが必要不可欠です。そうした役割を担うのも、我々設備の人間の使命だと認識しています」
ところで、今の話にも通じるのだが、〝つながる〞という言葉には、データをお互いにBIMで受け渡すということ以外に、もう一つ意味するところがある。そうしたデータを、社内はもとよりプロジェクトにかかわるクライアントも含めたメンバーが共有し、コラボレーションしながら作業ができる環境の実現である。
同社は、その目的を果たすためにCDE(共有データ環境)「BIM360」を導入している。いったい、どんなことができるのか?
「これは、いわば〝BIMの連絡帳〞です。ある建築に関連するすべてのやり取りをここにアップしておけば、例えば『言った』『いや聞いてない』という問題は起こりません。情報を一人で持っているよりも、多くの人が共有したほうが、いい知恵も出るでしょう。会議の回数はかなり減らせますし、情報共有のために割く時間も大幅に短縮できる。BIMだからこそ、そういうことも可能になるのです」
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- 谷内秀敬
Hidetaka Yachi 1989年、工学院大学建築学部建築学科卒業後、新菱冷熱工業株式会社入社。
生産施設、研究施設、教育施設、電算センターなどの現場業務に従事。
2014年より、本格的にBIM実施計画書立案、BIM運用支援の業務に携わる。
20年1月より現職。
buildingSMART JAPAN設備環境小委員会リーダー。
全国建設研修センターBIM講師。
設備設計一級建築士。
- 新菱冷熱工業株式会社
新菱冷熱工業株式会社
設立/1956年2月23日
代表者/代表取締役社長 加賀美 猛
本社所在地/東京都新宿区四谷1-6-1
https://www.shinryo.com/