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人がより能動的に動けば、 新たな価値に出合える。 社会、空間、組織に イノベーションを起こす “越境デザイン”チーム

人がより能動的に動けば、 新たな価値に出合える。 社会、空間、組織に イノベーションを起こす “越境デザイン”チーム

NAD (Nikken Activity Design Lab)

 2013年10月、日建設計の一部署として「NAD(Nikken Activity Design Lab)」が誕生。「クライアントの依頼をかたちにする」という従来の建築設計とは異なり、「何をつくるべきか」をユーザーとともに考え、ともにつくるのがNADの使命。チームには建築士のほか、リサーチャーやエンジニアが在籍し、オフィスを主としながら公共空間、ツールなど、ハードのみならずソフトもデザインする。そんな彼らを、人は「越境するデザイン集団」と呼ぶ。

オフィスデザインから公共空間へと進出

いわずもがな、日建設計は、日本が誇る世界最大級の組織設計事務所だ。その一部署としてNADが設立されたのはおよそ10年前。背景には、クライアントからの依頼内容の変化がある。

「『〇〇という与件で空間をつくってほしい』という明快な依頼が減ってきたのです」とその当時を振り返るのは、NADのダイレクターを務める勝矢武之氏。16年にFCバルセロナのホームスタジアム「カンプ・ノウ」改修国際コンペで優勝を勝ち取るなど、世界的に活躍する建築家の一人だ。

 「資本主義が成熟して多くの建物が建てられた結果、条件や機能を揃えるといったニーズはもはや十分に満たされています。求められているのは、機能ではなく、オリジナルな〝意味〞や〝価値〞を生み出す建築です。しかし、社会変化が激しい現代では、クライアントはそれが何なのかを定義できません。そこで『何をつくればいいか?』というところから相談を受けるようになったのです。その時、私たちが注目したのは〝ユーザーの体験〞でした。その空間を利用するユーザーの体験=アクティビティをデザインすることで、ユーザーが潜在的に欲しているものに辿り着けるのではないか、と」

それが「越境するデザイン集団」NADの起こりだ。当時からオフィスデザイン=働き方のデザインの依頼は多かった。「当時は、部門間の垣根を越えて皆が集まり、議論することで、イノベーションを起こす〝フューチャーセンター〞の依頼が多く、このユーザー体験の提案からNADはスタートしたといえます」と勝矢氏。

NADの仕事の進め方は、従来の日建設計のそれとは一線を画す。例えば、NADが重視しているプロセスに「エスノグラフィー(行動観察)」がある。

「デザイン提案に先だち、クライアントのオフィスをじっくりと観察することから始めるんです。まずはオフィス内で人々がどうふるまっているのか、クライアントがどんな文化を持っているのかなどをじっくり観察します。こうしたインプットからクライアントの業務やワークスタイルについて理解を深めていくにつれ、ユーザーが本当に必要としているものが見えてくる。作業着をお借りして工場を一日中観察したこともあります」

こうしたプロセスを通じて、オフィス一つひとつに企業独自の価値が反映されてゆく。

22年に竣工したNEWPEACEの新オフィスは、「ポストコロナ時代における、単なる〝働く場所〞ではないオフィス空間を志向しており、チーム内の交流を主体にした空間になっています」と勝矢氏は言う。

クライアントとのワークショップを重視するのもNADの特徴の一つ。実際にオフィスを利用するユーザーにとことん話し合ってもらうなど、NADとユーザーがともに課題を発見し、解決策を検討するプロセスを踏む。

「新しい空間が完成しても、ユーザーが使いこなせない、というズレは建築の世界でよくある話。でも、これはユーザーにとってその建築が〝自分事〞になっていないから起こることです。そこで、観察とヒアリングを通じて本当にユーザーに合ったものを見つけ、かつワークショップを通じてユーザー自身が考える機会を設け、『これこそ本当に自分たちが欲しているものだ』と腹に落としてもらう。そうなれば新たな空間が〝自分事〞になる。その結果、新オフィスがローンチした後も、ユーザーは能動的に空間を使い切ることができるようになります」

Woven Planet Group 日本橋オフィス
(東京都中央区/2019年)

自動運転技術、ロボティクスなどの開発やWoven Cityプロジェクトを手掛けるウーブン・プラネット・グループには、グローバルで1500人以上の仲間がいる。NADは、高い生産性、よい刺激、幸せを感じながら働ける、これらを実現できる場を目指した。「同じ画面を見ながら複数人のエンジニアがプログラムを同時進行で完成させていく様子は、まるで一つの生命体のようでした」(勝矢氏)。オフィス環境だけではなく、改善する仕組みや運用等含めてクライアントとともに実現した 撮影/永禮 賢

空間の具体的なコンセプトやデザインを考えるのは、こうしてリサーチを深め、必要なユーザー体験を導き出してからのこと。それ以降も、ブランディングやオフィスの運用ルール、コミュニケーションのアプリなどソフト面にいたるまでデザインする。完成後には効果検証までを行いながら、思い描いたユーザー体験を実現し、長くかかわってその空間を進化させてゆく。

「こうしたプロセスはオフィス以外の空間でも活用できます。最近増えているのは、公共空間のデザインです。例えば、何もない空き地に意味を発生させるためにはどうすればいいのか。横浜市の『みっけるみなぶん』は、車道を減らし、歩道化する実証実験ですが、ここでは、様々なアクティビティに対応できる新しい道路の使い方を人々に問いかけました」

【次のページ】
ポストコロナ時代のビジョンを提示する

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PROFILE

勝矢武之

勝矢武之
Takeyuki Katsuya

日建設計 設計部門 ダイレクター アーキテクト
兼新領域開拓部門 新領域ラボグループ
NAD(Nikken Activity Design Lab)ダイレクター

京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、2000年に日建設計入社。
16年、FCバルセロナのホームスタジアム「カンプ・ノウ」改修国際
コンペに当選。以降、19年竣工の渋谷駅の再開発「渋谷スクランブル
スクエア東棟(第Ⅰ期)」と同展望施設「渋谷スカイ」、「有明体操競技
場」を担当。20年より設計部門ダイレクターに加えて、NADのダイレクターを兼任。

株式会社日建設計

創業/1900年6月1日
代表者/代表取締役社長 大松 敦
所在地/東京都千代田区飯田橋2-18-3
https://www.nikken.jp/

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