建築家は、川上・川下に向けて、打って出るべきところは出て行くべき
公益社団法人 日本建築家協会 専務理事 筒井信也
前回のコラムでも述べたが、日本建築家協会(JIA)は、「建築家としての高い職能と倫理の堅持」「設計・施工の分離を基本とする中立性の維持」を理念に掲げている。
ただ、これまでどおり建築家とJIAが頑張っていれば理念を守ることができるとも言ってはいられない“建築の生産方法の大変”が、10年以内に業界を覆うことになると私はみている。簡単に言うと、“設計専業”という立ち位置は難しくなり、建築生産システム全体を意識した仕事の仕方にシフトすることが、強く要請されることになるのではないか。会員の中にはそうした未来を敏感に感じ取って積極的な対応を考えている人もいれば、その流れに危惧を抱く人がいるのも事実であるが……。
私見を述べれば、建築家に対する社会の要請を踏まえつつ、打って出るべきところは出て行く必要があると思う。例えば、川上では施主に対して、そのニーズを的確に掴むだけではなく、“建築家ができるサービス”を積極的にアピール、提供していくのである。それらが単に“建物にかかわること”だけでは不十分だ。クライアントのマーケティング、ファイナンスといったものにまで視野を広げたうえで、設計の貢献を考えていく。求められるのは、そういう発想になるだろう。建築家にそうした知見が不足する場合、こちらから専門のシンクタンクなどとのネットワークづくりを積極的に仕かけていくことが必要となる。
一方、川下の施工に関して言うと、工事監理の業務はご存知のように国交省の業務報酬基準で、“やるべきこと”がある程度明確にされている。しかし、本当に定められた基準に則ってやっていれば、我々の仕事は“事足れり”なのだろうか。品質とコストの管理分野で高度な取り組みが求められてくると思う。もっと川下のメンテナンス分野ではさらにやれることがあるはずだ。
ただし、だからといって、冒頭に述べた“設計・施工の分離”という理念を投げ捨てるわけにはいかない。理念を守りつつ変革をどう受け入れていくのか、というのは一筋縄ではいかないテーマだが、JIAでも本格的な議論を始める時期にあると認識している。
こうした“大変革”のきっかけの一つが、CM(コンストラクション・マネージャー)の台頭である。CMの指導で「この案件は、設計施工一括方式、そして第三者監理で行きましょう」というように生産・発注方式まで決められると建築設計は専業どころか、それこそデザインだけの“駒”に押し込められる危険性がある。これまで手がけていた付随する様々な業務も、「それはこちらでやりますから」になりかねない。そうならないためにも、建築家の側が、説明してきたような、幅広く、しかも高度なノウハウを身に付ける必要がある。そのうえで、「この部分を私たちがやれば、こういうメリットがある」といった存在意義を主張していくべきと思うのだ。
国土交通省は、2018年から、「CM方式(ピュア型)の制度的枠組みに関する検討会」で、そのあり方を検討している。建築家のできること、果たすべき役割について、しっかり主張していきたいと考えている。
- Nobuya Tsutsui
筒井信也 1977年、京都大学法学部卒業後、株式会社日本興業銀行入行。
86年、日経マグロウヒル株式会社(現日経BP)入社、記者・編集業務を担当。
92年、企業コンサルタント業務を主とする株式会社都市トータルデザインを設立し、
代表取締役に就任。2010年より現職。