“部署”の枠を超えて、環境負荷低減の 最適解を探求し続ける社内横断的グループ
石本建築事務所 環境統合技術室
時代を超えて継承する環境配慮への姿勢
石本建築事務所は、組織横断型の自由なプラットフォームとして環境統合技術室を設置、運用している。同事務所の設計の基本姿勢でもある「環境統合技術」とは、常に環境を含めた全体像として建築を認識し、〝最適解〞を導き、具現化するための手法である。
「創業期に当事務所に在籍した大先輩、詩人・建築家の立原道造氏は、意匠と衛生学の融合の必要性を書き記していました。その思いを継承し、現代建築としてのあるべき姿を検証しています」
と同室室長の榊原由紀子氏は語る。
同室には、エリア、部署の垣根を越えて集った20名ほどのメンバーが集結し、活動を行う。各プロジェクトで得られた知見を蓄積し、未来に生かすのが大きな目的だ。そのため、プロジェクトごとに「環境デザインシート」を作成し、全所員が自由に閲覧できるよう整備。設計過程だけでなく、竣工後の実測や評価・分析までを記録していることも特徴といえる。そのなかで、自然通風、光環境、放射空調、ライフサイクルコストに、新技術を加えた5項目を重点研究として位置づけ、研究チームを立ち上げ深化を図る。そうやって得た研究成果が次のプロジェクトに還元されることで、より環境に適合した設計を導き出せるというわけだ。
ちなみに、同事務所が手掛けた上田市庁舎はサステナブル建築物等先導事業に採択され、現在も実測を続けながらデータを蓄積している。そして、同庁舎のタスクアンビエントの天井は、環境・構造・意匠が融合した美しいデザインとして注目された。
「エコならデザインは度外視という言い訳は、今の時代、許されません。もはやデザインとエコの両立はスタンダード。エコロジーとエコノミーがどちらも〝家〞を語源とする造語であるように、環境価値と経済価値を両立させた設計で顧客満足の最大化を図ります」
所員が自分事として環境統合技術を捉える
環境意識は社会全体で急速に深まっており、建築業界も強いコミットメントを求められている。一昔前、コストの面で環境配慮型の提案は敬遠されがちだったが、現在は官民問わず設計要件に組み込まれ、プロポーザルでは必須といっていい。各設計事務所もここに注力しているのが現状で、どのように差別化を図るかが課題となっている。
環境統合技術を広めるための社内の連携も欠かせない。月に1度行っているレビューでは、コロナ後のリモート活用で30物件を超えた。各エリアのメンバーが知見を寄せ合うことで、多様な視点からアドバイスができるという。
外部連携としては、滋賀県立大学の金子尚志准教授との共同研究に取り組み、成果発表の場として社内向けの環境建築フォーラムを開催。ゆくゆくは社外にも広げていく予定である。また、発信・PRも同室の活動の重要な柱だ。最近は環境に対する学生の関心が高く、就職活動の場では環境統合技術についての質問をよく受けるという。
このような多彩な活動を、同室のメンバーは自身の担当プロジェクト業務と同時並行でこなしているが、いわゆる〝部署〞を超えて活動できる意義は高いと榊原氏は話す。
「各々が現場で評価と分析を行い、そこで蓄積した知見を持ち合って研究し、切磋琢磨することが重要。ゆえにプロジェクトと環境統合技術室を兼務することが効果的なのです。さらにメンバーはいうなればプラットフォームの管理人であり、全員が自分事として捉えるからこそ、その意義が組織全体に広がり、当事務所の環境統合技術が向上していくと考えています」
- 設計部門建築グループ部長兼 環境統合技術室室長
榊原由紀子 さかきばら・ゆきこ/
1993年、東京大学工学部建築学科卒業後、株式会社石本建築事務所に入社。
98年、現ペリ・クラーク&パートナーズ留学(~99年)。
2016年、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修了。
主な受賞に、グッドデザイン賞、日本建築学会作品選集、
日本図書館協会建築賞、環境・設備デザイン賞、SDA賞、照明普及賞など。
一級建築士。
- 株式会社石本建築事務所
所在地/東京都千代田区九段南4-6-12
https://www.ishimoto.co.jp/
1927年創業。常に先見性を発揮した創業者・石本喜
久治の精神を受け継ぎ、設計を超えた幅広い技術とサ
ービスで「良い建築」を追求する。建築の調査・企画・設
計・監理・診断業務、建築に関する各種コンサルティン
グを行っている。