人、自然、時間を豊かに融合させ、 世の〝当たり前〞に向き合う建築を
武田清明建築設計事務所 武田清明
自然を切り離さず、建築と融合させる
入所10年を迎えた年に独立。事務所設立後に依頼された初めての仕事は、戦前に建てられた木造住宅のリノベーションプロジェクト「6つの小さな離れの家」である。規模も予算も隈事務所での仕事とはまったく異なり、ここでもまた新たな挑戦となった。
「過去に培ってきた技術は生かせないと悟った時、大学院時代に見たあの光景がよみがえってきたのです」
老夫婦2人が暮らすには広すぎる大きな母屋は、〝減築〞をすることで光や風を取り入れ、庭に点在する地下の室や防空壕の構造を生かして複数の離れをつくる。単にきれいに改修して時間軸をリセットするのではなく、過去からの延長線上に今の生活を整え直していった。
また、2021年に竣工した鶴岡邸は、武田氏の思想が全面に打ち出された作品だ。「鳥が集まってくる家にしたい」という風変わりな施主の要望に対し、人の暮らしと植物の暮らしを同時につくる〝器〞としての建築を考えた。
「屋上に樹木を植えるために入れた土は、雨水が浸みて〝水分を含んだ建材〞となり、暑さを遮断して人間のための快適な環境を整えてくれます。植物のための設計が人間にも貢献するという、相互の関係がなければ成り立たない建築を目指しました。内外の境界を区切って人と自然を切り離すのではなく、境界をあいまいにすることで、新しい答えが見つかった気がしています」
自然と建築というテーマを掲げている武田氏。これからは高齢化社会にも向き合っていきたいと語る。
「環境問題や高齢化問題など、社会で当たり前に言われていることに対して、建築家が貢献できる可能性を考えていきたい。人間も一つの自然と捉えた際の時間軸も加えながら、建築の新たなあり方を考えていくつもりです」
- 武田清明
たけだ・きよあき 1982年、神奈川県生まれ。
2005年、東海大学工学部建築学科卒業。
07年、イーストロンドン大学大学院修了。
08年、隈研吾建築都市設計事務所に入所し、設計室長などを歴任。
19年、武田清明建築設計事務所を設立。千葉工業大学、
日本女子大学、東海大学で非常勤講師。主な受賞に、
SDレビュー2018・鹿島賞、日本建築学会作品選集新人賞など。
一級建築士。
- 株式会社武田清明建築設計事務所
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