【第23回】建築士不足は我が国の由々しき問題。 抜本的な解決策を真剣に考えるべき
一般社団法人 東京建築士会 専務理事 鴛海浩康
私が専務理事を務める東京建築士会には、約6000人の会員がいる、と前回述べた。残念ながら、会員数は減少傾向にある。バブル崩壊以前は1万1000人、リーマンショック以前は7000人規模であったから、この間の落ち込みは小さなものではない。
もちろん、組織の運営に携わる者として、加入率の向上に努めなければならない責任は感じているが、現状を生んでいる主因は、すぐれて構造的なものだ。バブル崩壊、リーマンショックによる日本経済の収縮は、建設需要の頭を押さえた。時代の要請が大規模公共施設のような、いわゆる“箱モノ”の建設から、今あるストックの利活用に大きくシフトしてきたことも、結果的に建築業界のシュリンクに結びついたのだ。戦後の一時期、6000万人の就業人口のうち2000万人を建設・建築業が占める時代があった。いまや、それはおよそ1000万人といわれる。
こうした業界動向を、若い世代は鋭敏に感じ取る。建築を志す学生自体が減り、学んでも、アトリエで修業を積んで建築士になろうと夢を抱くような若者は、今や貴重な存在だ。最も就職希望が多いのは、不動産業界だという。デベロッパー側に立って、あえていえば「建築士のクライアント」という立場を志向しているのである。
そんな若者を責めることはできまい。だが、若い世代の参入が減り、一方で団塊世代のリタイアが進行する結果もたらされる「建築士不足」という問題を、看過するわけにはいかない。
専門知識、技能を有する建築士の不足は、すでに様々な歪みとなって国民生活に影響を与えつつある。行政を例に取ろう。公共施設を建設しようとすれば、プロポーザルを実施するのが通例だ。ところが、地方によっては、行政にそうした技術者がいなくなったために、プロポーザルのつくり込みが困難になっている。結局、大手ゼネコンにDB(デザインビルド)方式で設計・施工を丸投げせざるを得なくなり、コスト管理も人任せという事態を招いているのである。
各地で頻発している入札不調も、それが一つの原因だ。高騰している人件費や材料費の実態などを、発注者側が正確に把握できず、何度やっても折り合いがつかない。行政にしっかりした技術者がいれば、こんなことは起こり得ないだろう。
実は、若者に敬遠されていることに加えて、さらに建築士不足を助長する大きな問題がある。率直にいって、資格取得が難しすぎるのである。戦後、高まる復興需要に応えるために建築士を多く輩出する必要があった時代から、資格試験は徐々に“難関”になってきた。特に大きかったのは、2005年に明るみに出た「構造計算書偽装問題(耐震偽装問題)」の影響である。建築士の資格が問い直され、ハードルはさらに上がった。
私が最も疑問に感じるのは、例えば行政の建築の部署にいても、建築確認申請に携わるような実務に就いていなければ、建築士の受験資格が与えられない、という“縛り”の存在だ。事務的な職種は一律に門前払いというのは、明らかにいき過ぎで、合理性を欠く。
述べてきたような構造的な問題が絡みついているだけに、建築士不足の抜本的な解消には時間がかかるだろう。だが、できるところから手を付けることが大事だ。上部団体である日本建築士会連合会と協力し、国に建築士資格試験の受験資格緩和を働きかけていこうと考えている。
- Hiroyasu Oshiumi
鴛海浩康 1977年、日本大学理工学部建築学科卒業後、建築雑誌社の編集者に。
79年、一般社団法人東京建築士会に入社。
各種講演、講習など建築士資格研鑽事業、顕彰・展示会事業の企画・
立案、実施を担当する。2013年より専務理事に。
関東甲信越建築士会ブロック会常務理事、公益財団法人東京都防災・
建築まちづくりセンター理事、全国設計事務所健康保険組合選定理事ほか。
一級建築士。