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建築を学ぶZ世代の意欲を高める、 「パターン・ランゲージ」の手法

建築を学ぶZ世代の意欲を高める、 「パターン・ランゲージ」の手法

日本工学院八王子専門学校/日本工学院専門学校 副校長 山野大星

建築設計教育における「設計課題」には、以下のような問題点があると認識している。第1に、他の授業と設計課題の関係性などについて、それぞれの教員間で十分検討されているとは言い難く、結果的に課題の狙いが学生に理解されるように提示されていない。第2に、その課題によって学生にどんな力を身につけさせるのか、その評価方法も含めて十分練られたものになっていない。第3に、特に新入生の場合、そもそも「何をやったらいいのか」がわからずに途方に暮れるケースが見られる。

こうした点を踏まえて、現在我々が開発しているカリキュラムにおいては、従来のようなビルディング・タイプ別に小規模建築から徐々に大規模建築へ、という設定ではなく、それぞれの課題で学生が身につけるべき力や、評価方法を明確化することなどに取り組んでいる。そうした実践で活用しているのが、「パターン・ランゲージ」である。1970年代に、よい町や建物に潜む共通するパターンを言語化する方法として、建築家のクリストファー・アレグザンダーにより提唱されたもので、デザインにおける経験則を“パターン”という単位にまとめ、各パターンには、ある“状況”において生じる“問題”と、その“解決”の方法がセットになって記述される。

その考え方に則って、我々が独自に作成中の『建築を学ぶためのパターン・ランゲージ』(PLLA)は、「建築とは何か」(カテゴリー1)、「建築思考」(カテゴリー2)など9カテゴリー、全81パターンからなり、それぞれのパターンの概要がトランプ(カード)にまとめられている。

例えば、カテゴリー1のパターン1は、《交差点に立つ》。「技術と芸術の交差点に立つ」という建築技術者の“立ち位置”を提示したうえで、「双方の視点を持たないと学びに必要な総合性が欠けてしまいます」という“問題”、「ハード(技術等)について高いレベルを探求し、ソフト(芸術等)については広く深く興味を持ち、両立して学ぶことを心がけます」という“解決”を述べ、「技術脳・芸術脳の比率を知ろう!」という入学時の新入生ワークショップ(WS)の“実践”メニューに結びつけている。パターンは、《ロマンとガマン》(建築の仕事には夢があり、プロになるには努力も必要)、《ドアノブから都市まで》(建築の対象は小さなものから大きなものまである)と続く。

PLLAの大きな目的は、右も左もわからない新入生にとっての“地図”を示すことだ。その効果の検証も兼ね、2022年4月に本校の新入生およそ300人を対象としたWSを実施した。結果は、期待どおりのものだった。WS前後で同じ質問(例えば「建築とはどんな分野かを理解している」)に答えた調査結果などを分析したところ、「学びの全体像が見えない」という不安を軽減する効果が確認されたのである。苦労した甲斐はあった、と手ごたえを感じている。WSで使用したのは、作成済みのカテゴリー1・2だったが、2023年4月に、カテゴリー9まで全81パターンが完成した。

こうした取り組みに対しては、「学生を甘やかせ過ぎだ」といった声も聞こえてくる。だが、Z世代の若者たちの意識や行動は、かつての世代とは違うのだ。地図さえ広げて見せれば、従来にない感性を羽ばたかせる可能性を秘めているともいえる。時代に即して、教育も変わらなくてはならない。

PROFILE

Daisei Yamano

Daisei Yamano
山野 大星

1985年、千葉大学工学部建築学科卒業後、建築事務所勤務、自身の事務所設立などを経て、
98年、学校法人片柳学園日本工学院八王子専門学校に入校。現在に至る。
慶應義塾大学大学院政策メディア研究科後期博士課程在学中。
全国専門学校建築教育連絡協議会会長、日本建築学会BIM設計教育ワーキンググループ委員
などを歴任。一級建築士。

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