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業界全体で、若手の 実務教育を重視するべき

業界全体で、若手の 実務教育を重視するべき

西沢大良建築設計事務所 代表/芝浦工業大学建築学部建築学科 教授

日本の建設業界は、おそらく2000年代の後半あたりから、若い人材を育てられなくなっていると思う。特に意匠系・計画系の若い人材が育っていないという印象を持つ(技術系の若い人材はまだ育っている)。この傾向は、ゼネコン設計部・組織設計事務所・アトリエ事務所のどこでも見られるもので、単に一部で起きていることではない。過去15年ほど続くこの傾向は、建設業(設計業)にとって致命的なことではないかと思う。次世代を育てられないような業界に、明るい未来が待っているわけがないからだ。

メディアでは、この傾向を若い人々のせいにするかのような論調ばかり目にする。若者の離職率の高さをやけに強調してみたり、メンタルの弱さを俎上にあげたり、社会経験のない新人にまで自己責任を押し付けたりしているからだ。まるで若者が育たないのは、若者に原因があると言わんばかりである。だが、冷静に考えればわかるように、若者が育たないのは若者のせいのはずがなく、① 年長者の行動に原因があり(仮に40~60代を年長者とする)、② 仕事の内容に原因がある。自ら育っていく賢者のような若者は、どの時代でも1000人に1人であり、そんな賢者を当てにして設計事務所を営むことはできない。年長者の目の前にいるのは、常に残り999人の若者であり、育つか育たないかは年長者にかかっている。

かく言う私も年長者の一人だが、大学で若い人々に建築を教えつつ、自ら設計事務所を運営するなかで、彼らの考え方をある程度理解した。以下では私の気づいたことを述べ、次世代の設計者が育つための一助としたい。 若者が育たない原因①(年長者の行動)は、現れ方としては多岐にわたるが、総じて“ささいなこと”が若者の成長を阻んでいる。

たとえば、もし前述したようなメディアの論調を耳にした職場の年長者が、それに反論する気配を一向に見せないとしたら、その態度は若者のやる気を削ぎ、成長を阻むことになる。立ち話でもよいから、若い人々の目の前で、年長者が完膚なきまでの反論を述べない限り、若者のやる気は回復せず、成長に転じることはない(反論できない場合は、少なくとも話題にあげ、若者の意見を求めるのがよい)。あるいはまた、職場の年長者が希望をもたずに働いているような場合も、その人物の態度が若者のやる気を削ぎ、成長を阻む。速やかにその人物を若者から隔離して、別の年長者(設計業への希望を捨てていない者)に代えない限り、若者は離職するか、在職しながら仕事をしなくなる(離職同然になる)。

理由は簡単だ。今日の若者は、幼少期から年長者を警戒するよう教えられてきたのである。小中高の全期間、教師や親から「不審者と接触せずに登下校せよ」「見知らぬ大人と話してはならぬ」と命じられ、大人を避けて生きてきた。彼らにとって私たち年長者は、何をするかわからぬ不気味な存在であり、自分に危害を加えるエイリアンのごとき存在だ。児童を狙う犯罪が後を絶たない以上、そう見えても不思議ではない。そんな彼らと接触する職場の年長者としては、まずは自分が“無害な”エイリアンであることを、日々のささいな行動で示す必要がある。若者が成長するのはその後であり、成果を出すのもその後だ。

PROFILE

Taira Nishizawa

Taira Nishizawa
西沢 大良

1987年、東京工業大学工学部建築学科卒業後、入江経一建築設計事務所入所。93年、
西沢大良建築設計事務所設立。2013年より芝浦工業大学教授。AR-AWARDS最優秀
賞(英国)、JIA新人賞、ART&FORM最優秀賞(米国)など受賞多数。近著『現代都市の
ための9か条 近代都市の9つの欠陥』(オーム社)。一級建築士。

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