設計者、職人と堅固な信頼関係を構築しながら、〝粋〞な現代建築をかたちに。歴史と伝統を未来につなぐ
株式会社水澤工務店 工事部 統括工事長
日本の誇る建築・建設技術者を紹介する本連載の3回目にご登場願うのは、水澤工務店の統括工事長・木下進司氏だ。
木造の高級注文住宅で知られる同社にあって、個人住宅ばかりでなく、神社や茶室、飲食店、あるいはRC構造の大規模建造物まで、多種多様な建物の施工管理に携わってきた。
そんな木下氏の語る、「図面を現場でかたちにするものづくり」の極意とは━━。
課せられた仕事には必ず意味があることを肝に銘じ
現在は、統括工事長として、同時に複数の現場を見る。「上司から、あれこれ細かなことを教えてもらった記憶は、ほとんどない」木下氏だが、後続の人材を育てる立場にもある。
「今でも時々、夕方現場に顔を出し、若いスタッフを連れて仕事場を回ります。そうしながら例えば『あそこに使われているのは何の木だ?』というような質問をしてみる。自分が経験した現場で使われた材料ぐらいは覚えて、今後の仕事に生かしてほしいですからね。そして、いつも強調しているのが、新人が言いつけられた掃除ひとつとっても、そこには必ず理由があるのだ、ということです。現場で何をするにしても、常にその意味を考え、把握しながら取り組む。これを心がけるか否かで、後々の仕事に大きく差が出ると思うのです」
実は「自分自身、何度も辛い思いをして、『この現場が終わったら会社を辞めようかな』と思ったことも、一度や二度ではない」そうだ。
「でも、途中で投げ出すのは悔しいし恥ずかしい。なにくそと頑張って建物が完成し、最後に検査官から『OKです。ご苦労さん』と言われると、いつも思わず目頭が熱くなって……。苦労した現場ほど、達成感も大きいんですね。その繰り返しで、ここまできたというのが、正直なところです」
そういった自らの経験も踏まえ、若手には「簡単にあきらめるな」とエールを送る。
「この業界に限らず、働いている人間は、何かしら辛いものを抱えているわけです。でも、それを乗り越えてこそ、成長できる。もし、『もう続かない』と思っている人がいたら、ものづくりの素晴らしさ、面白さを実感できるまで、まずは目の前の仕事にどっぷりと浸かってほしい、と言いたいですね。いろいろ判断するのは、それからでも遅くないじゃないですか」
- 木下 進司
1969年11月14日 神奈川県藤沢市生まれ
1992年3月 日本大学 生産工学部 建築工学科卒業
1992年4月 株式会社水澤工務店入社
2007年4月 工事長に就任
2011年4月 統括工事長に就任