「ブランディングデザイン」という仕事
株式会社エイトブランディングデザイン 代表 ブランディングデザイナー 西澤明洋
僕は「ブランディングデザイン」という新しいデザイン領域の専門家です。それは顧客のオリエンに従いロゴなどをつくって終わりという仕事ではなく、企業のブランド、ある意味経営そのものをデザインしていく、というような働き方をしています。そうした考えを持つに至ったのは、学生時代に建築を学んだことと無関係ではありません。
僕は、もともと建築家を志して京都工芸繊維大学造形工学科に進学し、建築を勉強していました。在学中、大きな転機となる出来事がありました。全国の大学に先駆けて、デザイン経営を学ぶ専門学科ができたのです。建物にとどまらず、企業そのもののグランドデザインを設計するような学問にがぜん面白さを感じた僕は、大学院に進みデザイン経営の研究に没頭しました。修了後、2年ほど東芝のデザインセンターでの“修業”を経た後、独立。2006年にブランディングデザイン専門の会社を設立しました。
独立前より僕の頭のなかには、リサーチから戦略のプランニング、コンセプト開発、デザインまで一貫性のあるブランディングを実現する「フォーカスRPCD®」というデザイン開発手法の構想が出来上がっていました。ファーストケースとして携わったのが、埼玉県の「COEDOビール」です。朝霧重治社長と二人三脚で試行錯誤しながらブランド開発を進めていきました。当時、社長の傍らを伴走しながらプロジェクトを進めることで「経営とはこういうものだ」というのを実地で学ばせていただき、その経験が今の僕のブランディングの手法に大きく影響を与えています。
僕たちが主にお手伝いしているのは、「いいものやサービスを提供しているのに、業績が伸びない」という悩みを抱える企業の方々です。古くから商売を続けられている会社ほどこういうお悩みは多く、先にお話ししたビール会社もそうですが、お醤油やお味噌、ハンドクリームや工芸品、建具メーカーや建売住宅屋さん、変わったところでは神社など、様々な業界・領域のクライアントに伴走しながらブランディングのお手伝いをしています。
会社の将来ビジョンに耳を傾けながら、「売り方を変えたらどうでしょう」「それに合わせて商品の企画やラインナップを考えませんか」といったやり取りに、数カ月、ときには数年かけることもあります。結果的には、既存の商品を大きくリポジショニングしたり、売り方を刷新するなど経営に大きく踏み込んだ戦略を立案し、それをコミュニケーションデザインにまで落とし込んでいきます。そうすることで赤字転落していた業績がV字回復を果たしたり、地方の中小企業であっても採用数を大きく伸ばすなど、多くのクライアントで成果があがっています。
このように戦略からデザインの実装まで一気通貫で請け負う手法は、 “ 建築的”だという感覚が、僕のなかにはあります。建築家の仕事は、造形のデザインだけではないと思います。施主に寄り添い、その要望を聞きながら、予算や法令も頭に入れつつ、大工さんなどと協働して建物を実装する職業、というのが僕の理解です。僕のブランディングデザインには、そういう建築家の“まるっと”やるデザイン方法論が生きているように思います。
ただ、そうした視点からあらためて今の建築設計の業界を見つめ直してみると、気になることも結構あります。次回は、その点を中心にお話ししたいと思います。
- Akihiro Nishizawa
西澤 明洋 2002年、京都工芸繊維大学大学院修了後、株式会社東芝に入社。06年、現株式会社
エイトブランディングデザイン設立。「ブランディングデザインで日本を元気にする」
というコンセプトのもと、ブランディングデザイナーとしての活動を開始。
『ブランディングデザインの教科書』(パイ インターナショナル)など著書多数。